シリフ霊殿
Schild von Leiden

螺旋の虎
「#奈々殿」
 買い物袋を両手に後ろをついて来ていた幸村が不意に話しかけてきた。
「何だい?」
「あの橙色の塊は何でござろうか」
 何の事だろう、と彼の向いている方に視線をやって、ようやく納得する。
 橙色の塊というから何の事かと思ったが、単なる南瓜の山だった。
 山には木の札がさしてあって、『ハロウィーンにつき南瓜大特価』と書かれている。
「外国の祭りだよ。ハロウィン……と言っても君には分からないだろうね」
「うむ、さっぱり!」
 胸を張って言う事じゃない。
 私は苦笑しながら説明した。
「ハロウィンの夜には死者や魔物……妖怪のようなものかな、それが出て歩く。
 だから子供達は魔物に襲われないように自分も魔物の格好をするんだよ」
「成程」
「確か魔物の格好をした子供が家々を渡り歩いてお菓子を貰う……のだったかな?」
「ほお……」
 お菓子、という単語を聞いた途端幸村の目の色が変わった。
 キラキラした子供の目。
 それはもはや南瓜ではなく、その隣のワゴン売りされた菓子類に向いている。
「……お菓子が欲しいのかい?」
「そっそそそそのような事は!某は幼子ではありませぬ!」
「ヨダレ垂れかかってるけどね」
「はぁッ!」
「冗談だよ」
「#奈々どのー……」
 私は久し振りに声を出して笑う。
 目の前で情けない表情をしている十七の若武者が可愛らしくてたまらない。
「いいよ。一つ買っておいで」
「真にござるか!」
「お菓子をあげなければ、私は可愛らしい若虎に悪戯されてしまいそうだからね」
 幸村は嬉々としてワゴンの方に駆けていった。
 両手に買い物袋を持ったまま、よくもあそこまで全力疾走できるものだと思う。



「……やっぱりあげる時には仮装をしてないといけないのかな?」
 パーティグッズの猫耳か犬耳なら探せばあった気はするが。



何故ハロウィンネタを書こうと思ったのか思い出せない
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