シリフ霊殿
Schild von Leiden

イノベイターはミスティ・ブルーの夢を見るか?
「ティエ」
『……』
「ティエリア」
『……』
「ティエリア・アーデ」
『……』
「アーデたん」
『……』
 うーん、ここまで呼んでも反応を示さないとなると相当怒ってるな。
 他に呼び方となると井野辺てゐぐらいしか思いつかない。
「ねーごめんってば確かにアクセス遠のいたのは悪かったけど、
 こっちにはこっちでそれなりに忙しい理由とかあったんだってばさぁ」
 だから機嫌直して下さい本気で仕事が出来ませんお願いします。



「……ティエ」
 放って置かれた腹いせに何かしてやりたい気持ちは分かるけど、
 こういう事してもあたしの仕事が更に溜まるだけだって気付かないんだろうか。
 とりあえず、ヴェーダにアクセス拒否されてる間に溜まった仕事がこの山。
 解除してもらってもまたしばらくティエリアには構ってやれそうも無い。
 いや、一応ヴェーダには構えるんだけどね。ティエリアにはね。
「ティエ」
 ホログラムどころか映像すら出してくれないモニターをこんこんと突付く。
 《ACCESS ERROR》と表示された画面が揺らいだ気がした。
「ねえティエ、」
『……未だ』
「ん?」
『僕は未だ、眠らない』
「……うん」
 眠らないんじゃなくて、眠りたくないんでしょう。あんたが。
 言う代わりにもう一度モニターを突付く。
 当人に感覚なんか無くても、雰囲気で察して貰いたい。





『償いはして貰う』
 しばらく経ってモニター上に姿を現したティエリアは何時ものままだった。
 この姿になってから妙にポーカーフェイスが上手くなって困る。
 逆に態と泣き顔っぽくして周囲の同情を誘ったりまでするし。
「はいはい、何して欲しいの?出来る範囲ね」
『本を買って来い』
「本?電子かそれとも紙のやつ?」
『どちらでも良い。君が仕事をしている間読んで時間を潰す』
「……」
 コンピューターの読書なんてデータチップを読み込んで一瞬で終わりだ。
 それを態々本と呼べる形態でと指定してくるという事は、
 つまりあたしの横でホログラム使ってのんびり待ってるという事か。
「……りょーかい。内容の指定は?」
『特に無い。君が丁度良いと思える長さのものを買って来い』
「はいはい」
 腹いせに官能小説でも買って来てやろうか、と思って止めた。きっと仕事の邪魔になる。



あっ名前変換がない
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