シリフ霊殿
Schild von Leiden

執事の居る風景
 食堂には山盛りの料理。
 普段私の食事の量は綿密なカロリー計算に基づいて作られていて、
 食べ残す事もお代わりをねだる事も許されない。
 もっともそれは大抵私にとっては丁度良い量なので、それ程の不都合は無い。
 けれども今日はクリスマスという事もあるのだろうか、
 テーブルの上には豪華な食事が所狭しと並べられていた。


「私、幾ら何でもこんなに食べられないわよ」
 丁度また新しい皿を持って来た光秀に言うと、彼は構いませんよと言って笑った。
「皆で食べることを想定して多めに作ったものですから」
 確かに今日の夕食はクリスマスパーティという事もあって、
 テーブルの周りには普段の数倍の人数が集って料理をつついている。
 けれどそれを抜きにしても、私一人だけの前にある量がそもそも常軌を逸している気がする。
 これだけの量を食べ切る事が出来たとしても、明日からカロリー計算が厳しくなりそうだ。
「食べきれないようでしたら残してくださって構いません。他の方々が片付けるでしょう」
「・・・否定はしないわ」
 これだけの豪華さだもの。
 例え残飯だとしても喜んで口に運びそうな執事や使用人に、数人心当たりがある。

「そうですね、それではこのスープだけは残さずに飲んでいただけますか」
 光秀が指し示したのは、料理の皿の山の隅の方にあったスープカップ。
 野菜のたっぷり入ったコンソメのスープだ。
 他の料理に負けず劣らず美味しそうな匂いはするけれど、何となく似つかわしくない気がする。
 ローストなど油物が多い食卓だから、どちらかというとポタージュの方が合うかと思ったのに。
 そう思って光秀の顔を見てみたけれど、この料理人はただ笑って私の顔を見ているだけだ。
 不思議に思って辺りを見回して、そして気がついた。
 ここを除いて食卓の上に何処にも、こんなスープは無い。
 数人スープを飲んでいる人は居るけれど、こんなコンソメのスープでは無さそうだ。
「内緒ですよ」
 言って光秀はいつもの笑いを浮かべた。
「貴女に風邪をひかれても困りますのでね。貴女だけの為に拵えた特製です」
 成程、確かにこれなら効率良く野菜のビタミンを採る事が出来る。
 口をつけると、予想に違わない見事な味わいだった。
 私の記憶が確かなら、今まで飲んだ事のある野菜スープには無かった味。
「まさか、これは今日思いついて作ったものなの?」
 尋ねてみると、案の定光秀は首を横に振った。
「貴女のお口に合うように、今日この日に合わせて考えていたものです。
 気に入ったのでしたら、またこうして食事にお出ししましょう」



料理担当:明智光秀
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