何となく予感がする。
この屋敷で執事という名の冠された使用人は、執事長を含めその多くが私専属だ。
少なくとも名義上は私が主人であり、父様の命令よりも私を優先するよう言われている。
ただ、その事と彼らが私に絶対服従だという事とはどうやら同列にない。
私に向ける忠誠はどうも従者というよりはむしろ保護者的属性から成っているようで
病気になれば親身になって看病してくれるし、何かしでかせば本気で説教もされる。
もっとも、これは主人である私の年齢も理由の一つかもしれないけれど。
主人だというのに執事に小言を言われない日など無いくらいだ。
朝、少しでも寝坊をすれば半兵衛から小言を言われるし、
紅茶を入れる作法を少しでも間違うと、なっていないといって元就に怒られる。
中でも一番きついのが小十郎からのお説教だ。
彼の説教に耐え切れず辞めていく使用人も少なくないくらい、屋敷の人間からは恐れられている。
そしてその小十郎の怒気が今、自室の扉の向こうから私には何となく感じられるのだった。
「全く、貴女という人は・・・」
覚悟をして部屋に入った割に、小十郎からの言葉はその一言だけだった。
またいつかのように雷が飛んでくるのを予想していた私にとっては拍子抜けだ。
「あら、いつものお説教は無いのね」
思わずそんな言葉が口をついて出てしまう程に。
小十郎は何も言い返さずに、ただ黙って溜息を吐いた。
正直なところを言うと、怒鳴られるよりもかえって居心地が悪い。
「貴女が真冬の庭に出て何やら探し回っていると聞いた時にはする気満々だったのですがね」
恐らく植木鉢を探していた時の事だろう。
小十郎はちらりと私の部屋の隅に目をやった。元親が置いていってくれた植木鉢がある。
土を入れて種を蒔いたら出窓にでも置こうと思っていたところだ。
今は土も肥料もなく、ただ慶次のくれた花の種の包みだけがぽつんと入っている。
「あれを見たらその気が失せました」
私が何のために植木鉢を探していたのか、小十郎には何となく察しがついたのだろう。
「それに、お嬢様へのクリスマスプレゼントが説教になっちまうのもどうかと思いましたので」
「そうね、それはとても嬉しいプレゼントだわ。ありがとう」
私は半分冗談のようにお礼を言った。
「それからお嬢様がご自分でこの花を育てる件については、この小十郎反対はいたしません」
言いながら、小十郎は慶次の持って来た種を慎重に吟味している。
小十郎は屋敷の家事の大抵をこなすけれど、実は一番得意なのは庭いじりだ。
庭師にならなかったのが不思議な程、小十郎は土と仲が良い。
多分今も、この花の蒔く時期やよく効く肥料などを選び出しているのだろう。
「ただ、これの為にまた今回のような無茶はなさりませぬように」
「分かってるわ」
素直に頷くと、小十郎はようやく笑顔を見せた。
「この花に合う土と、肥料と、それからお嬢様にも扱えるような庭道具を。
クリスマスの贈り物はそれでよろしいか」
「ええ、勿論」
家事担当:片倉小十郎