庭は一面の雪景色。
幸いにも近所で事件が起こったという話は聞かない。
庭は数人の警備員が歩いている以外はいたって静かなもので、
私はのんびりと雪に染まった植木や置物を観察して回る事が出来た。
一通り回ったところで、常々不審者に気をつけろと言われていたのをようやく思い出す。
厳重な警備に守られているとはいえ、万全と言い切れる事は無い。
何時何処で『お嬢様』を狙っている輩と遭遇するか知れないのだから。
いつだか聞いた小言を思い起こしながら歩いていると、突然後ろから誰かに目隠しをされた。
不審者、誘拐犯、物騒な考えが一瞬頭をよぎったけれど、
よく考えれば私が庭に出ている事が慶次に伝わっていない筈が無い。
第一私を攫おうとしているなら、こんな風に両手で目を覆うような事はしないだろう。
しかも「だーれだ?」という能天気な声まで聞こえてくる。
「・・・慶次」
「ピンポーン♪」
明るい笑い声がして視界が晴れた。
振り向くと予想通りの人物が満面の笑みで立っている。
「びっくりした?」
無言の私に返答を促すように慶次が話しかけてきた。
「ええ、少しね。何が起きたのかと思ったわ」
「えーそれだけ?」
「それだけよ。早めに犯人の目星がついたお陰でね」
もう少し大きな反応を返してくれるものだと思っていたらしい。
慶次はちぇっといって頬を掻いた。
「それで、貴方は警備をさぼってこんな所に居ても平気なのかしら?」
「平気っていうか、ほら、お嬢様の警備が俺の仕事だからさ」
「そういえばそれもそうね」
「それに、お嬢様に渡したい物もあったし」
「渡したい物?」
「うん」
慶次がポケットから出してきたのは、小さな包みに入った花の種だった。
冬の今は咲いていないけれど屋敷の庭にはよく咲き誇っているもので、私の好きな花だった。
「庭には咲いてなくても、これならお嬢様の部屋で植木鉢でも使って咲かせられるだろ?」
クリスマスプレゼントだよ、と慶次は照れながら笑う。
見ればラッピングもされていないし、プレゼント自体もこれといって値のはる物でもない。
それでも私は心からの笑顔でありがとう、と言った。
「この辺もうちょい俺が見回ってるからさ、お嬢様はもう少しのんびりしてろよ」
「そうね。それじゃあもうしばらく庭を歩いて、これを植えるのに丁度良い植木鉢を探そうかしら」
「ただし気をつけなよ。今夜は吹雪くって言ってたからさ」
「失礼ね。いくら私でも、夜になるまで庭に立っている気は無いわ」
警邏担当:前田慶次