外へ出たいな、と思う。
私の唯一自由に行ける「外」は、屋敷の庭だ。
その庭さえも外が少し騒がしくなれば行くのを禁じられてしまう程だけれど、
大抵はこの辺りは平和で、私はのんびりと広い庭を歩き回る事が出来る。
廊下を歩いていてふと窓の外を見ると雪景色だった。昨夜の内に雪が降ったらしい。
窓からは見えない植木も雪化粧をしているのだろうか。
そう思うと、何だか無性に外へ出たくなった。
「おおおお嬢様、お風邪を召されまする・・・!」
外へ出ようとした所で幸村に見つかって、案の定止められた。
「大丈夫よ、ほんの少し庭を歩いてくるだけだから」
「し、しかし」
幸村の視線がちらりと扉の方へ向いた。
「・・・外は雪でございますゆえ」
「だからこうして上着を羽織っているじゃないの」
それも部屋で羽織るような薄いものじゃなくて、冬用のきちんとした厚手のものだ。
羽織った上着をひらひらしてみせると、幸村はますます当惑した表情になった。
「・・・お出ししたいのは山々でござるが・・・その、片倉殿、が」
やっぱり邪魔しているのは小十郎なのね。
私は小さく溜息を吐いた。
春や夏や秋のように、何時間も外で庭の景色を眺めていようというのではない。
ただ、雪の降る庭も一興かと思っただけ。
寒くなってから外に出る事もめっきり少なくなったから、久し振りにと思っただけ。
「小十郎には私から言っておくわよ。ね、少し景色を見るだけ」
「けれど、万が一お風邪など召されましたら某が叱られますゆえ・・・」
「もう、この家の人間は皆揃って心配性なのね。上着ひとつでは足りないというの?」
「足りませぬ!」
意外にも幸村は伏せていた顔をきっと上げて断言した。
これは小十郎に言われたのではなく、幸村自身の考えなのだろう。
「某がお仕えするのは片倉殿ではなくお嬢様。
そのお嬢様がどうしてもと仰るならば、もはやこの幸村止めはいたしませぬ」
ようやく考えがまとまった、といった顔つきだ。
「しかし、お嬢様がお風邪を召されては困るというのもまた事実。ですから、これを」
幸村はそこで思い出したようにポケットに入れていた何かを私に差し出した。
赤い手袋。まだ新品で、洒落気の無い彼が身に着けるにしては随分と上等な品だった。
「・・・私が借りてしまって良いのかしら?」
「い、いいえそれはその・・・!お嬢様に、機を見てさしあげようと思っていたもので・・・」
赤くなって再び俯く幸村に、私は笑いながら背を向けた。
「ありがとう」
執事見習い:真田幸村