朝食のテーブルの上。
食堂に着くと、テーブルにはもう朝食の準備が出来ていた。
テーブルの上にはきちんとテーブルクロスがかけられ、銀色の食器が行儀良く並んでいる。
いつもと変わらない、うちの屋敷での食事の風景だ。
席に着くと順に料理が運ばれてくる。
と、並んだ食器の端に、小さな箱が置いてあるのが目に付いた。
今朝の政宗からのものと同じように、包装紙とリボンでラッピングがされている。
こればかりは席を立って確かめに行く訳にもいかないので、私は少し辺りを見回してみた。
朝食が済むと、蘭丸が食後のデザートと飲み物を運んでくる。
手馴れた動作でカップを置くその手を少し押し止めて、蘭丸の顔を覗き込んだ。
「何、お嬢様?」
「蘭丸、もしかしてこれは貴方?」
カップを持った蘭丸の手が微かに揺れた。
それでもカップの中の紅茶の水面は微動だにしていないのは流石と言うべきなのだろうか。
「・・・えへへ、ばれちゃった?」
デザートの小皿とカップをテーブルの上に置き終わると、蘭丸はそう言って小さく舌を出した。
小十郎が見ていたら大目玉が飛ぶところだけれど、幸い彼は今ここにはいない。
「そうね。推測だったけど、たった今貴方が自分で認めたから」
私も悪戯っぽく笑って、カップを口に運ぶ。
「ちぇー、こっそり置いたつもりだったのに何で分かったんだよ」
「別に、聞いたからといって感心する程の事でもないわ」
朝食の席にこんな物を置けるのは、食事に携わる使用人達だけ。
といっても当然朝食の支度には小十郎も加わるだろうから、
彼の目を盗んでテーブルの上に食器以外の物が置ける人間となるとごく限られてくる。
あまり小十郎に目をつけられておらず、なおかつそれなりの度胸と腕前が無いといけない。
私が思いついたのは小十郎本人、光秀、蘭丸の三人。
偶然にも丁度蘭丸が傍にやって来たから、最初に声をかけて聞いてみたまでだ。
「なーんだぁ」
説明すると、蘭丸はそう言って軽く頬を膨らませた。
「それで、これは私宛なのかしら」
ラッピングされた箱を手にとって蘭丸に尋ねる。
これも、と言いたい所だけれど、言ったら彼はきっと臍を曲げるに違いない。
「うん、そうだよ」
蘭丸は元気良く返事をしてから少し言い澱んだ。
「・・・あ、あの、さ」
「何?」
「お嬢様お金持ちだから・・・蘭丸のプレゼントなんてつまんないかもしれないけど・・・」
「あら、そんな事を気にしていたの」
私は笑って、プレゼントを持った方とは逆の手で蘭丸の頭を撫でた。
「大丈夫、人の気持ちに勝る宝は無いものよ」
「そ、そっか・・・えへへ」
給仕担当:森蘭丸