シリフ霊殿
Schild von Leiden

執事の居る風景
 朝、目覚めた枕元。
 基本的に、私のベッドの枕元には物が無い。
 目覚まし時計なんて無くても定時になれば半兵衛が起こしに来てくれるし、
 それ以外わざわざベッドに置くようなものを私は持っていないからだ。
 けれど今朝目覚めた私の枕元には何かがあった。
 包装紙とリボンで綺麗にラッピングされた箱。
 手にとって開けてみると、透明なガラス細工の置物が出てきた。
 半兵衛に聞いても僕が部屋に来た時はもうあったよ、と首を傾げる。
 少し早めに身支度を整えて部屋を出た。


「Good Morning、お嬢様。良い夢は見れたか?」
 探し人は思っていたよりも早く見つかった。
 少し歩き回って見つからなければ執務室まで行ってみるつもりだったのだけれど、
 本人はやはり私が自分を探しに来る事を予測していたのだろう。
「政宗・・・貴方なのね」
 私は溜息を吐きながら言う。政宗は何の事だ、と惚けた。
「いきなり言われても何の事だかサッパリだ」
「私の枕元。貴方でしょう」
「Exactly」
 政宗は笑いながら上着のポケットに手をやった。
「貴方ねぇ・・・」
「何だ、Santa Clousからの贈り物はお気に召さなかったか?」
「気に入る気に入らないよりも前の話よ」
 全く、と私はもう一度溜息を吐く。身に着けているレースが溜息に合わせて揺れた。
「やっぱり貴方にとって私は、今でも小さな子供のままなのね」
 サンタクロースを健気に信じてベッドに靴下を下げた幼い夜、
 私にサンタの話をしたのもプレゼントを入れてくれたのも政宗だった。
 プレゼントを抱いて笑う私を抱きかかえて政宗も笑った。
 もう何年前の話か、覚えていないけれど。
 彼の中で、私はどうやらあの頃から殆ど成長していないらしい。
「俺はお嬢様の喜ぶ顔が見てえだけさ」
 政宗はポケットから出した白い口髭を指先で弄んでいる。
 昨夜はご丁寧にもサンタの格好をして私の部屋に来たのだろうか。
「大きくなろうが小さくなろうが、俺にとってお嬢様が可愛い事だけは変わりねえ」
「・・・そうね。昔から、随分と可愛がって貰ってきたわ」
「だが、お嬢様の方が俺を気に入らなくなったってんなら仕方ねえ。俺は所詮執事だ。
 Plesentが気に入らなきゃ、突っ返して貰っても構わないんだぜ」
 ちらりと意地悪そうな目でこちらを見る。
 私は三度目の溜息を吐いて踵を返した。
「貰っておくわよ。貴方は私の信頼する執事達の長だもの」



執事長:伊達政宗
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