再び長い廊下を歩く。
どれだけ歩き続けたのか、廊下には時計がないので分からない。
元親の部屋で見ておけば良かったかもしれない、と今更ながらに思う。
足は疲れていないので、それほど長くは歩いていないのだろうけれど。
それともこの広い屋敷で暮らす内に、長い廊下を歩くのに慣れてしまっただけなのだろうか。
ともあれ、向こうに突き当りが見えてきたのでさっきよりは歩いているのだろう。
一度ここの長さを測ってみるのも面白いかもしれない、と戯れ半分に思った。
すぐ前のドアが開いて、佐助が顔を出した。
私の姿を見つけるとにこっと笑いかけてくる。
「あれ、お嬢様。こんな所にいるなんて珍しいですねぇ」
換えたばかりらしいベッドシーツを手早く畳みながら佐助は言った。
「する事が無いのよ。久し振りに外に出かけるのも面白いとは思ったのだけれど」
「あー何かあった?」
私は軽く肩をすくめる事でそれに答える。
「良いのよ。出る気もあまりなかったから」
「はは、まぁ過保護な父親を持つとお嬢様も苦労・・・し・・・」
軽い語調の佐助の口上が途中で止まる。
どうしたのだろうと見やると、佐助の目線はまっすぐ私の胸元に注がれていた。
「どうかしたの?」
「いや……ちょっとごめんねお嬢様」
持っていたシーツをそっと床に置くと、佐助はいきなり私の前に膝をついた。
黒いズボンのポケットを探って、小さなポーチのようなものを取り出す。
中には針や鋏など、細かい道具が綺麗に並んで入っていた。
「ボタンが取れかかってる」
佐助はそれだけ言うと、ポーチの中から出した糸を針に通しだした。
糸の色はちゃんと目立たないように、私の着ている服の色と同じものだ。
「動かないでね、針刺さっちゃうから」
私の胸元の取れかかった釦に手をかけると、手馴れた手つきで釦を縫い付けていく。
本当に針を刺しているのか不思議になるほど、服を掴まれている私には違和感が無い。
確かに今日服を着た時少し釦が緩いような気はしていたけれど、
まさかこの程度で取れかかっているとは思わなかった。
「はい、おしまい」
そうこうしている内に佐助は釦を繕い終え、残った糸をぶつりと切った。
針と残った糸をまた綺麗に纏めてポーチにしまう。
「手際が良いのね」
「そりゃーオシゴトですから」
驚くほどしっかりと縫い付けられた釦を触りながら言うと、佐助はそう言ってへらりと笑った。
「これぐらいの芸当は出来なきゃ、執事じゃなくてただの使用人でしょ」
床に置いたシーツを抱えなおし、それじゃ、と言って私とは反対方向に歩いていく。
私はしばらく釦を触る手を止めずにぼんやりとしていた。
「執事って、裁縫道具を四六時中持ち歩いているものだったかしら……?」
「言っちゃだめ、それは!」
どうやら聞かれていたらしかった。
雑事担当:猿飛佐助