「あれっ」
書物を読んでいた主が妙な声を上げたので、横から内容を覗いてみた。
見る限り至って普通の、陰陽道の術について書かれた書物である。
「どうかしたか?」
「この本の中に式神との契約についての項があったから読んでたのに、魂に関する記述が無い」
「それは・・・無いであろうな」
「えー何で?陰陽博士の書いた由緒正しい本なのにー」
式神を五匹も従えておいて今更何だ、と思われそうだが、
考えてみればその契約の殆どは妖の側から一方的に結ばれたもので、本人は受理しただけだ。
妖の側から式神について教わる事も多い故、少しは学んでおこうと思ったのだろう。
「魂に関連する術の殆どは外法の域だ。学びたければ声聞師でも探してくるのだな」
声聞師、陰陽道の心得はあるが公に陰陽師と認められていない術者の事である。
公に認められていない事も行う輩が多い為、外法に長けた者も多い。
「え、元就のあれって外法だっ、たの?」
「妖が外法を使わぬとでも?」
「・・・いやあの」
何となく神聖そうな感じがあったから、つい。
呟くと、元就は黙って覗き込んでいた書物を閉じさせた。
「そこが外法の恐ろしい所の一つだ。主は余り関わらぬ方が良い」
「・・・元就は?」
「さて、どうであろうな。何れ報いは受けるやもしれぬが、所詮定まらぬものよ」
少なくとも我が主は、まだ何も知らずとも良い事だ。
「主は何も、知らぬままで良い」
運命共同体