「・・・っ」
そろりと一歩だけ足を踏み出す。
瞬間、尾の付け根から先にかけて快感とも苦痛とも言いがたい刺激が走り、元就は息を呑んだ。
いつもはぴんと立って彼の後ろをついてくるそれも、今日ばかりは力なく床に伏せたままである。
「ふ、不覚・・・これしきで・・・」
言いはするが、壁にすがりつくようにして立ち上がったまま一歩も動けないのもまた事実。
主の午睡が終わった直後の元就は大抵この姿勢のまま動けなくなる。
狐など多くの動物にとって尾とは人間にとっての腕のようなものであり、
枕代わりに使用して頭などのせれば、当然乗せた部分から先への血液の供給は止まる。
その結果何が起きるかというと、しばらくして退かした後に血液の流れの急激な変動が起こり、
乗せていた間の神経圧迫と血流障害と相俟って独特の麻痺状態と刺激を引き起こす。
早い話がつまり尻尾が痺れるのである。
「元就ー!」
どたどたと元親がこちらへ向かって来ているのが分かる。
傍迷惑な大声と足音が耳に障る。否、尾に障る。
しかし年長者の意地として、尾が痺れたからこちらへ来るななどとどうしても言いたくなかった。
「〜〜」
ずくりずくりと床を通して断続的に尾へ刺激が伝わって来る。
遂に足に力が入らなくなりへたり込むようにして床に座り込んでしまった。
「なー元就ってば」
「貴様、我の傍でこれ以上床を揺らすでないわぁぁぁ!!」
悩んでる暇もありゃしない