シリフ霊殿
Schild von Leiden

あなたへ、
 そういえば自分は契約より前の主人を知らない、とふと思った。

 九尾の狐の契約の時期は随分と昔らしいが詳しい時期は何故だか不明で、

 残りの四人は多少の差こそあれ殆ど同時期であったらしい。

 見鬼の才のお陰で子供の頃は随分と疎まれたものだという話を苦笑と共に聞かされたが、

 その疎んだ家族や周囲の人間が今どうしているのかも知らない。



 けれど。

「皆が来てからものすごく賑やかになったね」

 ある日彼女は笑ってそう言った。

 成程確かに子供のようにぎゃんぎゃん騒ぐ若いのが二匹と、

 それをたしなめつつたまに一緒になって騒ぎ立てる兄貴分が一匹。

 屋敷のほぼ全ての面倒事を一括して任されている自分と、

 もっぱら警備関連と主人の世話ぐらいしかやろうとしない大黒柱。

 主人はさしずめそれに甘えてばかりの妹分か。


 (賑やか、っていうか、何だか家族みたいだねえ、俺様達)



(俺たち、家族みたい)
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