シリフ霊殿
Schild von Leiden

あなたへ、
 自分が子供の頃の事は、あまり思い出したくない。

 陰陽師となる前の自分に良い思い出があまり無いからだ。

 叱られた思い出は無い。怒鳴られた思い出も無い。

 ただ、疎まれた。恐れられた。邪魔にされた。

 いっそ一思いに妖がこの身を一呑みにしてくれぬものかと、何度も思った。



 そう思った事もあるんだよとある時ぽろっと洩らしたら、叱られた。

『あのねえ、そういう事は例え事実でも言っちゃ駄目!

 それ言わせたご主人様の身内、例え死んでたって墓穴暴きにいきそうな人らだっているんだから』

 そして怒鳴られた。

『何だよ、俺らにMaster食えってか!?』

『ちっ、主人の身内じゃなきゃぶん殴りに行ってやんのによぉ!』

 更に泣かれた。

『あっあるじどのぉ・・・うっ、ご、ご苦労を・・・』

 嗚呼自分にはきちんと、叱って怒鳴って泣いてくれる人々が出来たのだと思った。

 ・・・まぁ、厳密に言うと人とは言い切れない訳だけど。

 何だか嬉しくて申し訳なくて涙が出た。

 元就が微笑って涙を拭ってくれた。



叱って怒鳴って泣いてくれる人たち
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