シリフ霊殿
Schild von Leiden

バサラ学園奮闘記
「そういえば今日から夏期講習だね」
 コーヒーを淹れながら半兵衛が言った。
「あーそだねー」
 あたしはクーラーの前でハンディ扇風機を回しながら答える。
 や、こうすると更に涼しくなる気がして。
「君は確か英語の担当だよね?そろそろ教室に行かないといけないんじゃないのかい?」
 ちっ、気付きやがった。
「……」
「……受験生にとって夏休みの勉強がどれだけ重要か知ってるよね?」
「……あの部屋エアコン壊れてんだもん」
「……」
「……」
「生徒達は皆その状況下で頑張っているんだよッ君も行って来たまえ!」
 ばしん。痛い。
 おけつ叩く事無いじゃん半兵衛のいぢわる。DV。



 大体エアコン業者が修理頼むのを夏期講習後にするのがいけないんだよ。
 終業式から今日まで時間あったじゃん。
 教室の戸を開けると、いやあ皆さんお揃いでぐったりしてらっしゃいますね。
 むわっとした熱気が戸を開けただけで内側から漂ってくる。
 室内って熱気が篭もる分タチが悪いよね。
 普段はぴしっとしてる元就やかすがでさえも机に頬杖ついてぐったりしてるし、
 元から暑さに弱い政宗は机に突っ伏したままぴくりとも動かない。(つか、おーい、生きてますかー?)
 ある程度元気そうなのは幸村と武蔵。
 まぁ普段から暑さ感知してるのかしてないのか分からん奴らだからなー。
 ところで元親君、暑いのは分かるけど制服のボタンは留めようか。破廉恥だから。
「えー、それじゃあ英語の授業を……始め……始め……」
 暑い。
 ぶっちゃけ生徒を気にかける余裕も授業を頑張る気力も無い程に暑い。
 とっとと帰って職員室で涼みたい。氷たっぷり入れたアイスコーヒー飲みたい。
「よし、とっとと終わらせて職員室で涼もうそうしよう……」
 声に出す事で自分を元気付け、よろよろと黒板に向かう。
 と、いきなり鋭い視線が背中に突き刺さった。
 視線に込められた言葉を意訳すると、『俺達をここに放置しといて自分だけ涼むのか』
 まぁ、あくまで意訳だけどね。
 やばいな、こういう時だけ妙に結束力固くなるからなーうちのクラス。
「えーと、じゃあ授業終わったら皆も……来る?」
 授業が終わったらとわざわざ言及したのは、形だけでも勉強はしておかないとあたしが説教を食らうから。
 元就あたりに。





「それで本当に連れて来るのが君らしいよ……」
「まーまーいいじゃん、夏休みなんだしさ」
 それに、宣言したからには実行しないと怖いのがうちの子らだし。
「うおー涼しー!」
「Aqua Vitaeってヤツだな」
「あー生き返るわー」
「この幸せ……!」
 こんなに幸せそうにしてるんだし。
「じゃあ、真面目に講習を受けた子だけここに連れて来るっていうのはどうだい?」
「あ、それいいねー」
「君が良く使っている手だよ」
「……すいません……」




夏期講習
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