シリフ霊殿
Schild von Leiden

バサラ学園奮闘記
 多分この時期暇だろうから、学校に呼び出した。
 皆には内緒ね、と言い添えて。
 (まぁ、多分どっかから洩れるんだろうけどね。)



「何の用だ」
 連絡を受けてすぐ家を出て来てくれたらしくて、到着は早かった。
 折角なので場所を職員室から空っぽのB組の教室に移す。
「他の者には言えぬ内容、か?」
 例のALT事件の事を思い出したのか、元・生徒会長の眼が不安に揺れる。
「いや、別に」
 あたしはとりあえず元就を安心させてあげた。

 そういえばこの子志望校何処だったっけ。
 前に模試の結果を見た時はA判定とB判定しか無かった事しか思い出せない。
 まぁ、偏差値60いくつとか70いくつとかあれば大体の学校スルーだよね。
 くそぅ、学生時代のあたしに半分欲しいぜ。
「ただ単にね、これあげようと思っただけ」
 昨夜ラッピングした小さな袋を鞄から出して手渡す。
「何だこれは」
「何って、いつものですよ」
 体育頑張りましたクッキー。
 皆にも配ってるけど、頑張ってる当の本人にもこうしてあげていたりする。
 別に何て事無いクッキーだけど、これのお陰で体育の単位取れたようなもんなんだから感謝して欲しいもんだ。
 なんてね。
「……そうか」
 小さく息を吐く元就。
 安心したのかがっかりしたのか微妙なラインだ。
「あ、後今回はおまけというか何というか」
「?」
「袋、開けてみてくれる?」
 折角なのでちょっと趣向を凝らしてみました。
 中身は平仮名の形をしたクッキーで、実は並べ替えるとあるメッセージが出来るようになっている。
「……?」
「元就、濁点の場所違う。ついでに並びも違う」
 本当に成績トップだったのかねこの子は。
 それとも回りくどい事しようとしたあたしが悪かったのか?


 『たんじょうびおめでとう』


「……あ」
「あっじゃない」
 やれやれ、濁点は別にしない方が良かったかね。
「今日でしょ、元就の誕生日」
 世間一般にはホワイトデーらしいけど、まぁあたしには関係ない行事だ。
 ……何しろ義理と人情でしかあげる相手が居なかったからね!
「知って居たのか」
「うんまぁ、大体は」
 伊達に生徒達と近しい位置に居る訳じゃありませんよ。
 誕生日とかそれくらいなら皆に聞いて大体の面々なら把握している。
 政宗とか8月3日は夏休み真っ盛りで誰も祝ってくれないとかぼやいてたしね。
「元就は結局殆どあたしにくっついたり甘えて来たりしてくれなかったからねぇ」
 だからこれは半分餌付けも兼ねて……とは言ったら怒られるので言いませんが。
 こらこら、そんなに握り締めたらクッキーが潰れますよ。
「教師は本来生徒と馴れ合うものでは無かろう」
「そりゃあね」
 まぁ、分かりきってた解答か。
「だが……」
「ん?」
 くん、と服が引かれる。俯きがちで表情は良く見えない。
「教師としてではなく、一年間世話になった人間と別れを惜しむと思えば……
 そ、その、少しくらいは、その、甘えるとやらをしてやっても……」
 (ああもうこのツンデレ生徒会長ほんとかわいい)
 そういえばあたしが担任いいかもなんて思ったのは、
 異動当日に学級委員も務めてた彼の意外な可愛さを見たからなんだった。
「元就のお陰で、この一年楽しかったよ」
「先生……」





 がらっ
「せんせーここ居るって聞いて……」
「#奈々、White Dayのお返し持って来てやった……ぜ……」
「……あ」




ホワイトデー
前<< 戻る >>次