シリフ霊殿
Schild von Leiden

バサラ学園奮闘記
 #奈々、二十ン歳。
 あたしは自分の誕生日を生徒達に教えていない。
 や、別に祝ってもらうようなもんでもないかなーと。
 若さ絶頂の彼らと違って、あたしはこれから段々老いていく身な訳だから、
 (……あ、言ってて悲しくなってきた)
 祝われてもそんな素直には喜べないというか。
 あ、でもプレゼント貰うのは嬉しいかもしれないな。とどのつまりその程度。
 そんな訳であたしの誕生日は16月344日です。13月666日でも良いや。
 ……まぁ、今となっては過去形で『でした』と表記する他無い訳ですが。

「だって先生今日が誕生日だって聞いたから」
「……誰に?」
「竹中先生」



 半 兵 衛 ま た お 前 か 。
 ( 好 い 加 減 訴 え て や る ぞ そ の 内 。 マ ジ で 。 )





 さて、あたしがどんな目にあったのかお話ししましょうか。
 誕生日当日の朝、職員室の自分の席に着くなりあたしは周囲の先生達からプレゼントを貰った。
 嬉しいけどあの……あたしは誕生日を教えていなかった気がするんですが。
 半兵衛にしか。
 そしてバラしたとしか思えないこいつはキザっぽいポーズで小さな紙袋を。
「……何これ」
「#奈々君、今日誕生日だろう?」
「いや中身」
「勿論プレゼントだよ」
「そーじゃなくてさ」
 開けてみればバカ高そうな化粧品。こんなものをどうしろと。
 というか半兵衛さん何処でこんなもん調達してきたんですか。
 あんまり考えたくないけど、まさか化粧品売り場に乗り込んだんですか?
 買ってる所を想像するとちょっとアレなんだけれども。
「#天原」
「うわー期間限定のバナナチョコだぁ豊臣先生ありがとうございますっ!」
「……」
「……あ」
 すんません半兵衛さんほんとごめんなさい。でも私は花より団子な性質なんだ。
「#奈々ー!」
 一瞬気まずい空気になりかけた職員室を、少年の能天気な声が打ち破った。
 いや、これは能天気というか空気読んでないというか。
 そもそも読もうともしていないというか。AKYってやつですね分かります。
「蘭丸君、職員室では一応先生つけようねー」
「うん!あのね、信長様が今日は#奈々の誕生日だから家に呼べって」
 先生つけろっつったでしょうがこのAKYが。
 あ、でも良いなぁ久し振りに理事長んち。
 パーティになるならいっちゃん達も来るだろうし、賑やかになりそうだ。
「うん分かったー、じゃあ放課後待ち合わせね」
 出来れば肉料理は少なめにしていただきたい。少なくとも内臓系。
 誕生日にまであのマッド明智のハァハァ言う姿は見たくないからね。



 始業時間になったので教室に入る。
 おはよー、と笑顔で出迎えてくれる生徒達。
 勿論誕生日の事は教えていないから話題には上ってこない。
 生徒の中で知っているのは蘭丸君くらいのもんだけど、あの子は人の秘密べらべら喋る子じゃないし。
 (というかそもそもうちのクラスの面々とはそんなに面識ないみたいだし)
「先生、今日の予習3ページしかやってこなかったから当てるならそこな!」
「うん分かった、3ページ終わったら即行で慶次に当ててあげるね」
「あ、俺何もやって来てねーから当てるなら1ページ目な」
「うん分かった、元親は今日一番難しい所当てるね」
「#奈々先生、某はその、難しい所はあまり……」
「大丈夫大丈夫、幸村には一番簡単な所にしてあげる」
「オイ何だよそのエコヒイキは!」
「幸村のは学力の問題、あんたらはただの怠惰。
 大体幸村に難しい所解かせたら、授業終わるまで黒板の前から動けないでしょ」
「うっ……そ、それはそうでござるが……」
「良かったな真田、其方の頭の程度をここまで理解してくれる教師はそう居らぬぞ」
「も、元就殿ー!」
「あははははー」
 良いなぁ、平和で。(しみじみ。)



 結局朝半兵衛の機嫌を盛大に捻じ曲げた以外にはこれといった事件も無し。
 (……いや、無い方が良いよ勿論)
 無事に授業を終えたあたしは、終礼の為に3年B組の教室に向かって歩いていた。
「……あれ」
 思わず思いっきりスルーしてしまった。空き教室かと思った。
 何故ってB組の教室の電気が全部消えて真っ暗になってたから。
 思わず廊下を一往復して階と教室間違えてないか確認してしまった。
 あるいは悪戯で教室名のプレート入れ替えられて無いかどうか。
 けれどここは高校校舎の3年教室の階、隣はA組で反対隣はC組。
 ここが3年B組だ。
 おっかしいな、と呟いて首を捻る。
 もしかして全員終礼ボイコットとか?
 何でそんな無意味な事を。理由なき反抗がしたい年頃なんだろうか。
 とりあえず教室の扉を開ける。真っ暗だ。そりゃそうか。
 そして本当に誰も居ないのかと壁の電気スイッチに手を伸ばした時……


 パチ、と音がして急に教室が明るくなった。
 ちなみにあたしの指からスイッチまでは、まだ数センチ程ある。


「……政宗」
 政宗がにっと笑ってVサインを作った。
 反対側の手はあたしに代わって電気のスイッチを押している。
「何やってんの」
「電気点けてんだが」
「違うそういう事が聞きたかったんじゃない」
「先生の誕生日サプライズだよー」
 教卓の前の机の下から佐助が這い出てきた。
 それを皮切りに皆もぞろぞろと机の下から……何かカタツムリの群れみたいだな。
 あ、忠勝頭ぶつけた。
「だっていきなり今日先生の誕生日でしたとか言われても、
 学校じゃプレゼントなんて用意できないじゃん?」
「昼休みにこっそり買いに行かねえ?って思ったんだけどな」
「終礼前に校外へ出るのは校則違反だ!」
「って元就が言うし」
 元親は頭を擦っている。机にぶつけたのか元就に殴られたのか。
「だから、先生に黙ってたお仕置きも兼ねてサプライズ。どう?」
 どう、と言われましても。
 ああこれお仕置きだったんだへー程度のもんしか言いようが無いんですが……
 まぁ、
「ありがとう」
 たまには年取るのも悪くないかもね。





「ところで何で黙ってたのにあたしの誕生日分かったの?」
「だって今日誕生日って聞いたから」
「……誰に?」
「竹中先生」

 そして冒頭に戻る。




誕生日
前<< 戻る >>次