慣れれば他人の心理を読むのは結構楽だ。
「せぇんせ」
佐助があたしをこんな風に呼ぶのは、大抵何か良からぬ事を考えている時。
ちなみに内容はこの限りではなく、さっぱり読めない時もあれば、今日みたいにあっさり分かる場合もある。
「Trick or Treat?」
「お、中々良い発音だね。はい」
ので、あたしは鞄に入れてあったクッキーを取り出して佐助に渡す。
夏に元就が持って来た大量の檸檬(の皮)を、勿体無いからママレード風にして生地に混ぜてみた。
「何だ気付いてたんだ、つまんなーい」
口を少し尖らせながらクッキーを受け取る佐助。
「君らがこういうイベントに便乗しそうなのは大体予想がついたからね。おーいそこの幸村君、君もいるー?」
丁度傍を通りかかった某生徒を捕まえて声を掛けると、大食らいの甘党はあっさり食いついてきた。
というか、大食らいすぎだ。
一応多めに作ってきたつもりだけど、この食べっぷりじゃ全員分足りるかどうか。
「ところで#奈々先生、今日は体育の授業はございませぬが?」
食うだけ食ってからツッコミを入れる幸村。
あたしがクッキーを作ってくる=元就に授業を受けさせる為と解釈しているらしい。
確かにその位しか作って来る時無いからそう思われても仕方が無いけど、改めて君から言われると何か腹が立つね。
「ハロウィンだよハロウィン!絶対食いついてくる子が居るだろうと思ってね」
本当はお化けの仮装をしてなきゃいけないらしいけど、
校則違反になるから今回はまぁ、決まり文句を言ってお菓子貰うだけって事で。
いやまぁこの学校だから校則なんて無視出来そうだけど。
「はろ……?」
「ハロウィン。あれ、幸村知らない?」
「破露印とはどのような奥義で?」
「うん君知らないね。間違いなく知らないね。」
そんな篠突く雨みたいなイベントは先生知らないや。
「ハロウィンっていうのはあれだよ、カボチャくり抜いて提灯にしたりさ」
「南瓜?南瓜を食すのは冬至では?」
しまった西洋の文化に疎い人間が居る事を忘れてた。
「元々お盆みたいなもんだったらしいんだけど……あーよく覚えてないなぁ」
基礎知識をまず蓄えておくべきだったか。
「要するに子供達がお化けの格好をしてお菓子を貰って回るんだよ」
何だか色々はしょった気がするが、まぁ日本だとこんなもんでしょ。
幸村は自分用のクッキーの最後の一枚を食べながらふむふむと頷く。
「という事は、今日は豊臣先生がお菓子を貰う日なのでござるな」
「え、何で豊臣先生?」
「キングコンg」
「それ言ったらあたしの首やばいからそれ以上言わないでくれる?」
何でお前キングコング知っててハロウィン知らないんだよ。
ていうかそれ本人(か、半兵衛)の前で言ったら頭握り潰されますから!
あれ、ていうかキングコングって妖怪だっけ?
「せめて政宗に竜とか元親に鬼とか光秀に死神とかそんなのにしようよ」
「おお、その手がござったか!」
その手がござったかじゃねえよ。ポンとか手叩くなよ。
「大体豊臣先生のあれはキングコングといえば聞こえはよさそうだけどさ、
大きさは実際キングコング程でもない割に腕力あれでしょ。
あっそういえばあの人の半兵衛への見舞い物バナナだったわ!
ここまで来るとキングコング通り越してただのゴリr」
「#奈々君……ちょっといいかな?」
「わーお半兵衛今日はハロウィンだねっ!今なら先着であたしの手作りクッキーがついてくるよ!」
冷や汗だらだらなの生徒達にばれませんように。
ハロウィン