シリフ霊殿
Schild von Leiden

バサラ学園奮闘記
 教室の扉を開けるとザ・ワールドでした。
 このクラスにはスタンド能力者は居なかったと思う。



 いい加減この子らの奇行には慣れたと思ってたんだけどなあ。
「……何なんだい今度は一体」
 箒を六本指に挟んだ政宗。(大丈夫かい、木刀よりずっと長くて重いぞ)
 英語のテキストを両手に持った幸村。(こらこら何してんだ英語の偏差値20)
 天井に張り付いて床を凝視している佐助。(あー忍者の子孫って噂マジかなー)
 黒板に張り付いて微動だにしない元親。(昔は女みたいだったらしいけどねー)
 一人こっそり教室を出て行こうとしてる元就。(実は結構すぐパニくるんだ)
 席に座って前を向いたまま硬直している慶次。(そういや成績また落ちたよね。)
「……何なんだい今度は一体」
 本日二度目。
 全員思い思いのポーズで、あたしの方を向きもせずに固まっている。
 いや、あたしが来たから固まったのかなこれは。
 元就とか明らかに出て行く途中で硬直したっぽいもんね。
 あれだ、悪戯してる所をお母さんに見られた瞬間固まっちゃう悪戯っ子。
 罪悪感からね、一瞬硬直しちゃうんだよね。
「いやホント何やってんですか」
 クラスの半分は、一点を凝視したまま硬直している。
 残りの半分は、その一点から必死に目を逸らしている。
 その一点に、あたしは目をやってみた。


「何だ、ゴキブリか」
 ぶち。
 鈍い音と共に時が動き出す。
 教室は阿鼻叫喚の地獄絵図になった。


 かすがの悲鳴、元親の絶叫、政宗の叱責、小太郎の無言の訴え。
 え、ゴキブリ殺しちゃいけなかったの?
「#奈々……!おっまえ何でそんなあっさり殺せんだよ!」
「あっさりも何も、あっさり殺さなきゃ気持ち悪いだけじゃないよこんなの」
「そんな無表情でぶちっとかやる方がよっぽど気持ち悪いって!」
「あっさりなんて殺れる訳ねーだろ!cockroachだぞ!?」
「し、信じられぬ……!」
 退く佐助、逃げる家康、震える元就、何故か大爆笑する武蔵。
 何なんだ、このバラバラながら息の合ったリアクションは。
 まるであたしが一人バケモノみたいじゃないか。
「……まさか」
 はっと思い当たる事があって、ぐるりとクラス全体を見回す。
「皆、ゴキブリ苦手なの?」
「今気付いたのかよ!」
 わぁ元親見事なツッコミ。
 だって、クラス全員揃ってゴキブリ苦手だなんて普通思わないじゃないか。
 女性陣なら分からなくもないし、元就とか綺麗好きだから苦手そうだけど、
 元親とか政宗とかがそんな黒板に張り付くぐらい苦手だとは……
 え、もしかしてこの学校のゴキブリって口から放射能吐いたりするとか?
 まさかね。理事長があれだからまさかいやいやいや。
「……まあ、あれだ、本当言うとそう嫌いって訳でもねえんだけどよ」
 言いにくそうに頭を掻く元親。
 その傍で英語のテキストを降ろした幸村があっさりと言った。
「先生のロッカーから出てきたもので、思わず取り乱してしまったでござる」
「旦那!」
「馬鹿、そういう事は事実でも言うもんじゃ……」



 教室は再び阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
 ただし、あたし限定で。




大騒ぎ
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