シリフ霊殿
Schild von Leiden

バサラ学園奮闘記
 思い出すのは夏休み。
 クラス会(?)直前に夏バテ起こして寝込んだあたしを、皆は海水浴を放り出してまでお見舞いに来てくれた。
 半兵衛から合鍵を奪って、家の場所を聞いて。
 つまりはどういう事かというと、彼らはあたしの家の場所を知ってるって事だ。
 しかもその気になれば家の中に入って来る事も出来るっていう事だ。
 流石に暗黙の了解でもあるのか、生徒が一人でうちに乗り込んでくる事は無い。
 しかし。
「せんせーぇ」
「ぎゃっ!」
 時たまこうしてあたしの爽やかな寝起きを邪魔してくれたりするから油断できない。
 (まぁこいつらがいなくたって爽やかに起きれた事なんか無いんだけどさ!)



「うわー先生顔見るなりぎゃっとか俺様微妙に傷つくんですケド」
「だったらいっぺん同じ目に遭ってみればいいよ……!」
 言っとくけどテスト前は教師だってきついんだからね。テスト作りで。
 過剰労働の上生徒達の相手までして、あたし過労死しないのが不思議だよ。
「で、今回は何の用ですか?」
「テスト勉強会、折角だから先生の所でやろうかなって思って」
 帰れ。
 とは決して言えないあたしってまぁ何て優しいのかしら。(自画自賛)

 居間に行くと、一人暮らしの小さいテーブルにぎゅう詰めになって勉強会。
 面子は勿論B組の面々だ。
 勉強熱心なのは認めるし賛美だってするが、もっと他にいくらでも勉強しやすい環境はあるんじゃないかね。
 元就の家とかさ。きっと大きいよ。トイレ20畳とかあるよきっと。
 分からない所教えて欲しいならあたし出張するからさ。報酬別途で。
「あ、先生、お早うでござる!」
 人の頭の山の中から真っ先に顔を上げたのは幸村だった。
 目の前には赤ペンと書き込みで戦場のようになった英語のテキストがある。
「ん、おはよ。どう、今回は追試免れそう?」
「うむ、な、何とか」
「先刻やっと文型を理解した所だがな」
「ちょっと待て元就今何つった」
 文型ってあのSVOCMですよね。あたしあれ習ったの高一なんだけど。
 君ら今年高三ですよね?年明けたら大学受験ですよね?
 いきなりこの子の未来が不安になってきた。
「それよりも先生、この訳が出来ぬ」
「んーどれどれ……元就、これスペル違うよ。ここのeをaに変えれば出来ると思う」
「む?」
 この子は確かこの間の模試が偏差値60とか……70とか……
 まぁ、どっちもどっちか。
「Hey#奈々、ここの三角関数なんだけどな」
「そして君はあたしが英語教師と知った上での発言なのかなそれは」
 せめて文系科目について質問して欲しかったな。
 ええ学生時代数学の偏差値は35でしたが何か。
 三角関数どころか二次方程式覚えてるかどうかも怪しいよ!
「なー#奈々、フレミングの法則の左手の方な」
「だからあたしは文系だっつってんでしょーがそこの眼帯コンビ!」
 元就かかすがに聞け!
 ええ学生時代物理の偏差値は30でしたが何か!
 右手が発電機で左手が電動機で合ってましたか?





「それにしても元就は本当に勉強出来るねえ」
 幸村を教える佐助を教えるかすがを教える元就という、
 何だか温泉で背中を流しっこするサルのような状況を見ていてふっと思った。
「出来ぬようでは受験生とは言えぬのではないか?」
「そりゃーそうなんですけどねー」
 日本で一番頭が良いのは受験生だっていうのはあたしの先生の言葉。
 が、学生時代のあたしより確実に頭良いんだ、この子。
 ほんと脳味噌半分分けてくれませんか、今からでも。
「そこまで頭良いと、やっぱ第一志望は国公立とかなんでしょ?」
「……そうだな」
 何で間があるんですか。
「一応両親の薦める国公立と、私立にも良い所があったのでいくつか……それと、」
「確かどっかにうちの大学入ってたよnぶ!」
 ばこん。まぁ容赦ない。
 元就さん英単語7500は痛いと思います。厚み的に。
「か勘違いするでないぞ!志望の学部があるだけだ、それだけだからな!」
「うん」
「偏差値も悪くは無いから両親も悪くは言わぬであろうし……」
「つまりは皆が卒業したらあたしが寂しいみたいな事考えてくれてたんだね?」
 皆は知らないけれども、この間の政宗みたいに。
「……」
「ありがとう」
 最初に勘違いするななんて言わなければ誤魔化せたかもしれないのにね。
 とりあえずひとしきり笑って元就の頭を撫でておいた。
 撫でたら元就が真っ赤になってぎゃいぎゃい騒いだので、
 結局罪滅ぼしにその場に居た全員の頭を撫でて回る羽目になった。




試験勉強
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