シリフ霊殿
Schild von Leiden

バサラ学園奮闘記
 現在魂の抜けた政宗を引き摺ってお化け屋敷を闊歩しておりますこんにちわ。
 時折可愛い教え子達が飛び出してきてはあたしを楽しませてくれます。
「よ……」
「ギャァァァ!」
「おや元親、何その格好」
「見て分かんねェか?鬼だ鬼」
「お化け屋敷に鬼って微妙じゃない?」
「怖がってる奴居るんだから構わねェだろ」
「……まぁね」
 主に魂が抜けている筈の政宗でもって。
「もー政宗魂抜けてないんなら自分で歩いてよ。重いったら」
「アンタが勝手に引き摺ってきたんだろうが!」
 引き摺っていた手を離すと、政宗は文句を言いながらも立ち上がって、
 また次の瞬間悲鳴を上げてその場にへたり込んだ。
「ん?何、どした?」
「い、今何か首筋に……」
「首筋?誰かがコンニャクでもくっつけたんじゃないの?」
「ふぅ」
「うひょお!さ、佐助か!」
「あら、バレちゃった?」
「バレいでか!」



 とかまぁ色々やってたんですけれども。
 ある地点を越えると、急に人が出て来なくなった。
 と言ってもあたりは暗いままだし、不気味なサウンドが相変わらず流れている。
 ああ、最後に何かでかいの来るんだろうなぁと思いながら歩いていると、
「なぁ」
 不意に隣の政宗があたしの手を握ってきた。
「何、怖い?」
「ち違ぇよ!怖くなんかねえっつってんだろ!」
 震えてますが。
「はいはい。じゃあ何?」
 政宗はちょっと言い澱んだ。
「……何で、好きにして良いとか言ったんだよ」
「はい?」
「普通こういう行事って、担任がクラスの監督するもんだろ」
 あらら、矛先があたしに向きましたか。
 あたしが止めとこうよとか言えばこんな目に遭わなかったのにって?
 違う、あらそう。
 まぁあたしが居たって止めようとは言わなかっただろうけどね。
「だって、もう半年で卒業でしょ」
 あたしは壁にかかっている作り物のドクロを眺めながら言った。
 うん、誰が作ったか知らないが中々の出来。理科室の標本みたいにそっくりだ。
 本当無駄な所にばっか心血注ぐねーこの子らは。
「卒業したら皆バラバラでしょ。志望校だって皆違うだろうし。
 少なくとも卒業したらあたしの所には誰も残らない」
「……」
「だからね、皆にはせめて悔いが残らないように精一杯暴れて欲しかったんだよ」
 そしていつか、遠い未来でいいから、
 あたしが担任だった一年間を、良い思い出と共に思い出してくれるように。
 政宗の手を握る力が強くなった。
「……#奈々」
「何?」
「俺、留年してやろうか」
「はあ?」
 真顔で何を言い出すんだこのエセ不良は。
「そしたら、一人はあんたの所に残るだろ」
「……そーだね」
「良くねぇ?」
「良くねぇ」
「何でだよ」
「考えて気付けよ」
 ていうかむしろどこをどうしたらそういう結論にたどり着くものか。
 さも俺頭良くねえ?みたいな顔で言うんじゃない。
「あのねえ、留年とか退学とか出すのが教師にとってどれだけマイナスか知ってる?
 あたしの経歴に傷をつける心算が無いなら止めて」
 はいそこ、不満そうな顔しない。

「……遊びに来てくれれば良いじゃない」
 あたしは政宗の手を握り返しながら言った。
 大学行っても就職しても結婚しても子供が出来ても、何時でもいい。
 あたしが寂しそうだと思う限りは、遊びに来てくれると良い。
「……いいのか?」
「何が?」
「学校帰り、毎日職員室寄るぜ」
「……」
 それは ちょっと 鬱陶しい かもしれない。(卒業生が入り浸るってなぁ……)
「就職しても、結婚しても、餓鬼が出来ても、毎日」
「……うんごめん、そこまではちょっと御免被りたいかもしれない」
 つーかそんな事してみろ確実に離婚されるぞお前。
 けどもわざと留年する気は失くしたようなので結果オーライとしておいた。
「さ、そろそろゴールだよ。何が待ってるかなー」
 出口の看板が闇の向こうにうっすらと見える。
 その前に長い髪を垂らした誰かが立っているのも。
 その人物はあたし達の姿を見つけるとゆっくりと振り返り、言葉を発した。

「そこにいるのは、どなたですか……?」
「ギャァァァァ!!」

 叫んだ。
 ものっすごい叫んだ。
 このお化け屋敷に入って初めて、叫んだ。
「何ですか人の顔を見るなり失礼ですね」
「こ、こ、このシチュエーションであんた見て驚かずにいられるもんか」
 何で出口にあんたが立ち尽くしてるんですか光秀さん。
 まぁ多分皆の血のりメイクでも観察してたんだろうけどさ!




文化祭そのに
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