シリフ霊殿
Schild von Leiden

バサラ学園奮闘記
 卒業まであと半年を切った。
 この文化祭が終われば、大学受験も佳境に入る。
 今までみたいにぎゃあぎゃあ騒ぐ事だって、容易には出来なくなるだろう。
 いわば今が高校の思い出作りの最後の機会だ。
「だから皆、この文化祭は後悔のないように思いっきり暴れておいで」
 文化祭直前、あたしはB組の面々にそう指示を出した。





 そして当日。
 あたしは2年のクラスの縁日で買ったリンゴ飴を舐めながら見回りをしていた。
 ……すいません、遊んでるだろお前って言われても否定できません。
 いいじゃん、教師だって遊ばなきゃやってらんないよ。
 全てはあらかじめ買い食いを禁止しなかった上の人達が悪い。
 うん。そゆ事にしとこう。
 見回りと称して面白そうな出し物のクラスを一つ一つ回っていく。
 歓迎してもらったりサービスしてもらったり、成果は上々だ。
「さーてと、そういやうちのクラスは何かやってるんだっけ」
 前述の「暴れておいで」発言の後、あたしは本当にクラスの出し物について一切口出しをしなかったので、
 誰が何をやるのか、そもそもどんな出し物なのかも知らない。
 その方が楽しみで良いけど、逆に少し不安でもある。
 いくら扱い方を心得てるとはいえ、基本は変人の集まりなんだから、あのクラス。
「場所は体育館か……広いな。何やってんだ……ろ……」
 パンフレットから逸らした視線が、台詞ごと止まる。
 ねえそこのあんた、ゴミ箱の陰でうずくまって何やってんですか。
 本人は隠れている心算なのかもしれないが、高校三年の図体が小さいゴミ箱サイズに収まる訳も無い。
 目立ちまくり。悪目立ちだ。
「政宗、政宗、何やってんの」
 あたしが声を掛けると、政宗は怯えたようにびくっと反応した。
 おいおい、自称不良。
「ねえまさむ、」
「No!説得したって俺は絶対にやらねえからな!」
「……はあ?」
 何を勘違いしてらっしゃるんだろうこの人。
 政宗はがたがたと身体を震わせながら途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「俺は、俺は絶対出ねぇぞ、あんな……あんな所……っ」
「あんな所?」
 どんな所だ、ともう一度パンフレットを読み返してみる。
 3年B組、体育館にて、恐怖のお化け屋敷。
 誰が書いたのかとても気になる見事な血文字が紙の上で踊っていた。
「政宗、もしかしてお化け嫌い?」
 思わずあたしがそう呟くと、政宗はものすごい勢いでばっとこちらを振り向いた。
「ばっ、んな訳ねえだろ!馬鹿にしてんのか!」
「じゃあついでだし一緒に見に行こ。あたし見回りで強制的に行かなきゃなの」
「上等だ、何があっても知らねえからな!」
 はい、とふざけて差し出した手を政宗はものすごい強さで握ってきた。
 一体体育館で何があるっていうんでしょうか。
 (政宗がお化け怖いだけ、に食べかけのリンゴ飴賭けてみよう)





 要するに係になってお化けの傍に居なきゃいけないのが嫌で逃げてきたんだな。
 うん、間違いない。
 だって政宗ものすごい勢いであたしの腕にしがみついてるもん。
 怖いの?って聞いても怖くねえ!って返ってくるけど。(上等とか言った手前引き返せなくなったらしい)
「そういう#奈々はどうなんだよ」
「え、だってどうせ皆B組の面々なんでしょ?」
 友達がお化けの仮装してるみたいなもんでしょうが、と思う。
 そもそもお化けは訳が分からないから怖いのであって、正体がただの人間だと分かってれば怖くないんじゃ、と。
 まぁ妙な所に心血注ぐ子達だから、お化けのメイクはちょっとばかしリアルかもしれないが。
「元就、そのメイクで無表情で立ってるの止めようよ。逆に怖いよ」
 普通頭から血ぃ流した幽霊の表情っていうのはもっとこう薄笑い浮かべてたりさ。
 とりあえず、開きかけの瞳孔で無表情でこっち見られると逆に怖いから。
「そうか?我はそのような計算はしていないが」
「うんまあ、少なくとも政宗にとっては怖いみたいだからさ」
 あたしは左手にしがみついて離れない政宗を指差して元就に見せてやる。
 ところで政宗、そろそろ左手折れそうだから少し力緩めて。
「伊達!其方、係はどうした」
「だっ……ばっ……」
「係はどうしたと聞いておる」
「おま、顔近付けんなー!!」
「元就元就、遊ぶのはその辺にしといてあげなさい」
 反応楽しみたいのは分かるけど。
「来る途中でかすがと家康には会ったけど、他に当番やってる子誰?」
「あちらの通路に猿飛、奥に真田と長曾我部がいる。残りは裏方だ」
「おっけ。後でスタッフルーム見せてねー」
 さあいこう、と政宗の腕を引き摺るようにして奥へ向かう。
 政宗はさっきの元就のどアップで魂を抜かれたらしく、ずるずると引き摺られながら付いて来た。




文化祭そのいち
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