シリフ霊殿
Schild von Leiden

バサラ学園奮闘記
 全国的に夏です。
 基本的に勉強の嫌いなうちのクラスでは、そろそろ出来る頃ですね。
 なつやすみファンクラブが。(ネタが懐かしいな!)
 こないだは元親が制服の下に海パン穿いてて元就に説教食らってたし、
 そろそろ皆連休の計画など立て始める頃かなと。
 あ、一応教師にも夏休みはあるんだよ。生徒よりずっと短いけどね。



 でもその前に。
「もう知ってると思うけど、明日から期末試験だからね?」
「「「げっ!」」」
 政宗、元親、幸村、慶次、家康、武蔵。
 よし、今「げっ」って言った六人は追試組だな。まず間違いなく。
 鼻で笑った元就、かすがは安泰。
 苦笑してる佐助と表情崩さない小太郎、忠勝もまぁ大丈夫でしょう。
 (……もっともあの二人は普段からそう表情変わらないんだけど)
「ちなみに皆様ご存知だとは思いますが各教科六十点未満で追試、
 追試で六十点未満の場合はもれなく補習で夏休み潰れますのでそのつもりで」
 はい終礼終わりー、と言って教壇を下りながら、ちらりと六人の様子を見てみる。
 佐助に泣きつく幸村、元就に泣きつく元親、忠勝に泣きつく家康。
 慶次には前田先生がいるし、政宗も多分片倉さんに教えてもらうんだろう。
 武蔵も何だか島津校長と仲良いっぽいし、平気だよね。
 まぁ念の為に、六人分の追試用の要点まとめくらいは作って……

 がしっ

「うおぅ……何、慶次」
 服の襟首を掴まれて振り向くと、慶次のにんまりとした顔が見えた。
 あ、嫌な予感。
 多分追試にならなかったら云々とかお願いする気なんだろう。
 最近仲良しの延長の心算かそういう事をこっそりお願いしてくる事が多くなった。
「あのさ、俺がもし追試になんなかったら、夏休み遊びに行かねえ?」
 ほらやっぱり。
「何でまた」
「いや、ご褒美あった方がやる気出るし」
「……」
 はあ、と溜息をついてみる。
 遊びに行くのは、別に構わない。教師にだって遊びたい時ぐらいあるんですよ。
 けど慶次一人と遊びに行きました、となると不味い。
 学校関係者に睨まれるような行為はなるべく避けたいなーと思う訳でして。
 何より他のクラスメイトを差し置いて行くと後でうるさいよきっと。
 代表的な例がほら、新学期のあれでありまして。
 いっそ全員連れて行くとか……あ、いいなそれ。士気(?)高まるし。
 親睦会か何かって学校には言っておけば良い。
 そうすれば費用がクラス費から落とせるし。
 来年の春には受験だしねぇ。高校の思い出作りと思えば……うん、いいな。
「じゃあ慶次……と、それから政宗元親幸村家康武蔵、ついでに他の皆も」
 成績上位陣とそれに泣きついていた彼らが一斉に顔を上げる。
「君ら全員が、全教科赤点回避もしくは三教科で八十点以上取るのが条件。
 もしクラス全員クリアできたら、この夏休み皆で海に行こう。経費は親睦会費と称してクラス費から落とす」
 頑張れ、と言い残して、興奮したクラス中に抱きつかれる前にさっさと教室を後にした。





 半兵衛にも言われたけど、このクラスの面々は扱い辛いようでいて、コツを掴みさえすれば扱いは簡単だ。
「すごいですわ先生!どんなHRをなさったのでござりまするか?」
 テスト集計をしていた事務の前田……じゃなくてまつ先生がかなり興奮してあたしの席に押しかけてきた。
 (こないだ利家先生と結婚したんだった忘れてた)
 多分、例の追試組が思いの外頑張ってたんだろう。
 まつ先生にとっては慶次は一応義理の甥っ子に当たる訳だし。
 頼み込んで、こっそりうちのテスト結果を見せてもらう。
 元就が学年トップ、少し下にかすが。まぁ、この辺はいつもの事だ。
 少し偏差値が下がってるのは、追試組に教えるのに時間を割いたからか。
 その下で佐助、小太郎、忠勝も大体いつもの順位をキープ。
 んで、赤点取った奴はいないのか……あ、武蔵がギリギリでクリア。
 武蔵がクリアしてるという事は結構いけてるかもしれない。
 予想通り、次いで元親が地理、幸村が古典で点を稼いで武蔵の少し上の順位。
 その上に家康。家康最近成績上がって来てるよなー。
 政宗は意外にも家庭科の成績が良くて『三教科で八十点』をクリアしていた。
 (代わりに国語がぎりぎり赤点だけど一応合格だし何も言わないで置こう)
 すごいな、一応全員条件クリアしてるみたい……って、
「あ、あれ?慶次は?」
「ここでござりまする」
 まつ先生が興奮冷めやらぬ様子で、モニターを指差す。
 成績順に並んでいる名簿の、佐助よりも随分上の方。
「う……そ……」
 嘘だろ。
 あの勉強嫌いの風来坊が。
 利家先生に勉強勉強言われるのが嫌で家飛び出てきたっていうあの慶次が。
 学年上位、かすがとほぼ変わらない位置にまで食い込んでいた。
「うちの慶次がまさかこんな点を取れるなんて」とまつ先生は喜んでいて、
 下手をすればあたしにこの場で三つ指ついて感謝しそうなくらいだったけど、
 あたしはといえば、背中を冷たい汗が一筋流れていくのを感じずにはいられなかった。
 うちのクラスのセクハラしてくる生徒ランキング。
 三位、留学経験のせいかやたらに手が早い政宗。
 二位、こっそり背後から悪戯するのが得意な佐助。
 一位、人生の標語は恋ですと真顔で言ってのけた慶次。
 最初に海に行こうと行って来たのは彼だったけど、
 海に行く事が決定した後もあれこれとうるさかったもんだから、つい一言ぽそっと言ってしまったのだった。
 『そーゆー我侭はあたしに認められるくらい成績良くなってからいいなよー』
 冗談というか言葉の弾みだ。慶次もそれは重々承知の筈だ。
「そういえば先生、テストのご褒美にクラスで親睦会をやるのだとか。慶次がそれは楽しみにしておりました」
 それでここまでやるのか。慶次……恐ろしい子……!

 ……

 つーか頑張ればここまでいけるんだったら最初からやって下さいよ。




夏休み
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