シリフ霊殿
Schild von Leiden

バサラ学園奮闘記
 何か、今更な事ですが。
 このクラスってアレが出来そうだよね。某学園青春ドラマの冒頭の。
 最初にあたしが校庭の真ん中で『3年B組ー』って叫んで、
 そしたらその周りに生徒がわっと寄って来て『#奈々先生ー!』って叫ぶの。
 うん、出来そう。彼ら喜んでやってくれそう。
 それでクラスには誰か一人くらいはぐれ者っつーか不良っつーかがいてさ、
 その子が問題抱えてるのをあたしが苦労して何とかするの。
 あ、しまった肝心の問題抱えてる子がいないじゃんうち。
 ……まぁ、いるにゃいるんだけどね。政宗が。
 ただ最近の素行は少しずつ不良から抜けてってるし、
 こないだのあれを見るに、残念ながらドラマの題材になるような問題は持っててくれそうに無い。





 こないだっていうのは、あたしが昼休みに中庭を通りかかった時の事。
 用務員の片倉さんが何だか熱心に花壇の所を覗き込んでたから、
 花でも荒らされてるのかと気になって声を掛けた。
 片倉さんは家庭菜園が趣味で、植物関連に関しては詳しいし敏感だ。
 口調は少し任侠っぽいけど礼儀正しいし、良い人だと思うよ。
 ただその割に黒い噂が絶えないというか、不思議な噂が立ってるというか。
 何でも政宗は良い所の坊ちゃんで、片倉さんがボディーガードだと。
 跡目争いで命が危ないとかそんな設定付き。
 実際の所はどうなのか、噂の域を出てないんだけど、
 政宗の事を「政宗様」とか呼んだり、微妙に怪しい節はあるかな。
 まーそれはさておき。
「片倉さん、何やってるんですか?」
 政宗と片倉さんが親しい事を忘れてたあたしはそう声を掛けた。
 今にして思えば失敗だったというか、幸運だったというか。
「いやなに、墓の手入れをな」
 片倉さんは額の汗を拭いながらそう言った。
 見ると花壇の隅に小さいお墓らしき物があって、片倉さんは丁度それの手入れをしていた所らしい。
 かなり手馴れた様子でひょいひょいと雑草を抜いていく。
 流石家庭菜園が趣味なだけはある。
 そういえばこれも噂だけど、片倉さんの作る野菜は一級品で、
 しかるべき所に持っていけばかなりの評価なんだとか。
「何のお墓ですか?」
 こんな所にこっそり作るんだからまさか人間じゃないだろうと思って、
 あたしは片倉さんの脇からこっそりお墓を覗き込んだ。
 お墓といっても軽く土を持った上にその辺の小石で墓石を作っただけのもの。
 小石にはお世辞にも上手とは言えない字でこう書かれていた。

 『スズメのお墓』

 わぁ、雀だよ。
「巣から落ちている所を見つけられてな。必死に看病や世話をなさってたんだが、残念ながら……」
「そんな事が……仕方ないですよ、巣から落ちた雛って大抵助からないそうですし……?」
 ここでやっとあたしは片倉さんが政宗と仲良い事を思い出した。
 滅多に他人に頭は下げない片倉さんが、唯一敬語を使う相手の事も。
「あの……す、すいません、その雀の子拾って世話してた人って……」
「政宗様だ」
 やっぱりー!!
 道理で墓石の下手くそな字に見覚えある筈だよ!
 お墓って!お墓って!あの不良が『お墓』って!
「余程ショックだったらしくてな、今でもたまに墓を見に来られる。
 だからいついらしてもいいように、こうして手入れしてるんだ」
「へ、へぇ〜……」
 あの不良がねえ。まさかねえ。思わずそう言いそうになって慌てて止めた。
 片倉さんの逆鱗に触れる事は必至だったから。



 それから数日後、あたしはまた昼休みに中庭を通りかかった。
 今度見付けたのは政宗。花壇の傍に座り込んで、何だか煙をくゆらせている。
 まさか、煙草!?と思って駆け寄ろうとして、
「な、判ったろう?」
 背後からの片倉さんの声に止められた。
「あの方は本当は、とてもお優しい」
 言われてみればあの煙、煙草にしちゃ随分と細い。
 それにこの匂いは……白檀?
「……お線香あげてらっしゃるんですか、あれ」
 こっちに背を向けてるからよく判らないけど、どうやら墓の前で手を合わせてるらしい。
 片倉さんを振り返ると、笑って首を縦に振った。
 本当はお優しい……ねえ。
 まぁ、動物を飼うのは情操教育に良いとかよく言うけど。
 動物の死をここまで嘆けるんだから、その辺のスレた人間に比べれば随分純真だとは思うけど。

 ちょっとごめん、笑わせて。
 何笑ってんだとか詰め寄られそうだから片倉さんがどっか行った後で。
 ( 何 で お 前 そ れ で 不 良 や っ て ん だ ! ! )





 ちなみにその後、あたしは政宗にとある贈り物をした。
「政宗……はい、ポッキー」
「あ?」
「あげる。あたしの大好物でしかも期間限定な貴重品だけど政宗にあげる」
「……ンだよ、いきなり」
「今度、あの雀さんのお名前教えてね」
「はっ!?#奈々お前まさか見て……っ」
「大丈夫、誰にも言わないからー」
「#奈々、待っ……マジで誰にも言うんじゃねーぞ!!」
「いわないよー。多分」
「多分って言うなァァァァ!」
 次の日、何故か政宗にポッキーの詰め合わせを貰った。
 あたし何もしてないのになぁ、どうしてかなぁ。(いけしゃあしゃあ)




不良生徒
前<< 戻る >>次