シリフ霊殿
Schild von Leiden

狗とそれから
 怖い、怖い、怖い、ごめんなさいもうしないからそんな目で見ないで
 ちゃんと好かれる良い子になるからぶたないで苛めないで近寄らないで

「#朔夜!」
「……沖田さん」
 彼に無理矢理引き戻されるまで、頭の中ではいつだってそんな言葉が渦巻いている。
 いつだって恐怖で頭が一杯で、その間自分が何をしているかなど欠片も認識出来ていない。
 一度は気が付いたら傷だらけで檻の中だった事もあるくらいだ。
 『多勢に無勢をものともせず戦っていた』
 『戦いながら笑っているようにさえ見えた』
 仲間達の語る自分の武勇伝さえも、その後の自己嫌悪に拍車を掛けるものでしか無い。
 まるでそちらの方が本性なのだと突きつけられているようで。
 そして間の悪い事に、今目の前にある遺体は殊更状態が酷いのだった。
 もはや原型も留めない有様に吐き気がする。
 自分が何をし誰を殺したかなど記憶に無いから、
 目が覚めた時何かが目の前にあればそれは全て自分が原因なのだと反射的に思い込んでしまう。
「沖田さん」
「うん」
 これは私がやったんですか。
 答えを聞けば何かが壊れてしまいそうで何も言えない。
 相手は言葉を急かす事も無く、心なしか優しい目でこちらを見つめている。
「沖田さん、わ、私、わたし」
「……うん」
 ぽんぽんと慰めるように頭や背中を叩かれる。涙が出そうだった。
 上司なのだから隊長と呼ばなくては、と言った時、改まった場面だけで良いと彼は答えた。
 『だって、お前別になりたくて俺の部下になった訳じゃねェだろ』
 隊内では自分だけに許された特権は、こんな時に一番喜ばしく感じる事が出来る。
 いつか彼の為に刀を振るう事が出来たら良い、と思った。





「落ち着いたか」
「……はい」
「そっか」
 名残を惜しむように彼が身を離す。熱が冷める心地がして少し震えた。
「んじゃ帰りに何か食って帰ろうぜィ。お前の奢りな」
「えええええ!」
「オーイ、お前らはまず真っ直ぐ帰って風呂だから」
 背後から副長の呑気な声が飛んだ。



こういうスイッチのある狂人が大好きです。二次元限定で
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