「……あれ」
デスクワーク中の障子の向こう、ずらずらと行列を作るシルエット。
「皆さん揃って、お買い物ですか?」
「え?ええまぁちょっと」
廊下に顔だけ出して尋ねると、最後尾にいた山崎がでかい袋抱えて答えてくれた。
「沖田さんの誕生日なんです」
「へー」
何だ、宴会でもやるつもりなんだろうか。
楽しそうだけど、とりあえずこの書類の山をさっさと片付けてしまわなくては。
「あ、そうそうさっき副長が呼んでらっしゃいましたよ」
「……」
去り際にそゆ事さらっと言ってくのやめようよ。
「三日ほど有給をやる」
「はあ」
副長室に入って副長の前に座った第一声がこれだ。
という割には申請した覚えもないので、きっと強制的にとらされるんだろう。
この横暴副長。
「急ぎの書類がまだ残ってるんですが」
「後で持って来い、俺がやっておく」
「……何なんですか急に、気持ち悪いですよ副長」
「そうか?」
「死に番あがった直後に食堂に行ったら、
副長がマヨの代わりにトマトピューレをぶっかけてたくらい気持ちが悪いです」
「……」
「で、理由をお聞かせ願えますか」
ぴくりと副長の眉が動いた。
怒ったとかそういうんじゃなくて、『ち、バレたか』みたいな……
おいおい内緒で何さらす気だったんだこの副長殿は。
「……今日は総悟の誕生日だ」
「はい、それはつい先程山崎から聞きました」
で、それが何か。
「アイツが黙って祝われてると思うか?」
「……おっしゃる意味がよく判りませんが」
「ただ祝われてプレゼント貰ってそれで済むような奴か、アイツは?」
「……あー」
何となく判った。
祝われる立場である事をフルに活用してワガママ放題するに決まってるって事か。
「そこでだ、お前にも三日休暇をやる。総悟の見張りしてろ」
「あぁはいそういう事なら判りまし何で私?」
我ながら見事なノリツッコミ。
「総悟もお前相手なら大人しいだろうからな」
「……」
細かいことは良く判らないけれども。
「お前は俺以下真選組隊士達が平和に奴の誕生日を祝えるようにする為の、贄だ」
とりあえず巫山戯るなこのヘタレ副長が。
「おー#奈々、帰ったかィ」
「そしてお前も何を人の部屋で悠々と飲んだくれていやがるんだ?」
つーかマジで何、その酒の量。
鬼嫁というラベルがざっと十個は見えるんだけどね。
最近書類の見すぎで視力下がったかもとは思ってたけどまさか乱視までとは。
いやはや情報社会ってのは恐いですね。
……いや現実逃避なのは判ってます判ってますけどね。
「これねー、十番隊の奴らから。スゲーだろィ」
「ええもうありとあらゆる意味で」
何だ、さっきのやけにでかい荷物抱えてた集団はアレか。
「んでこっちが三番隊の奴らと、こっちのが山崎とか監察方から」
傍には山と積まれたつまみと甘味達。
女の子が砂糖とスパイスと素敵なもので出来ているとするならば、
どうやら沖田総悟は砂糖と酒とつまみで出来ているらしい。
あとバズーカとか土方の血とか子犬の尻尾とかどっかそのへんプラスアルファ。「#奈々からは?」
「え?」
「#奈々からはねェのかィ?」
するめの足を三本同時に口に突っ込んだまま聞いてくる。
せめて食べる前に聞いて欲しかった。
「じゃあはい」
こうやってほっぺちゅーして誤魔化す気だったから。
食べる前だったら口に出来たかもしれないのに、なんて言おうとしたけど
「……」
「沖田隊長?」
「……」
「あ、いらなかったら返品可ですから」
「……やらァ」
「はい?」
「大事にしてやらァっ!」
「どうも」
これ以上何か言ったら鬼嫁の空き瓶で殴られそうなので黙っておいた。
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