シリフ霊殿
Schild von Leiden

家なき殿
「この度はうちの殿がとんだご無礼を」
 それくらいしか言葉が見つからない。
 だって一体何が起こったのか話を聞いてもよく分からないんだもの。
 状況も理由も動機も分からない、ただ謝った方がいいのかなとだけ見当が付く。
 一応ここは他所様のお城で粗相をしたのはうちの殿で、
 あたしはその話を詳しく聞く為にはるばる中国から呼ばれたんだもの。

「まぁ元就様がどうして片倉殿の畑で転んで頭から泥引っ被ったのかに関しては未だよく分からないんですが」
 何でそんな所入ったんですか元就様。花すらまともに育てた事無い癖に。



「ところで当の元就様は何処に」
「一応風呂には入れて服は洗ったが、適当な着替えが無くてな。今の所俺の陣羽織着て奥の間だ」
「ああ成程、それで着替えを持って来いと……」
 裸エプロンならぬ裸陣羽織ですか。
 ちっともセクシーじゃないよ隠しとかなきゃいけない所まともに隠せないよ。
 元就様茶髪っぽいし、片倉殿の陣羽織着たらまっ茶になっちゃってるだろうな。
 何だまっ茶って。まぁいいや。
「では取り急ぎ元就様に着替えを渡して参りますね」
「頼んだぜ」
 ……まぁ雨が降ってる訳でも無いしすぐ乾くだろ、うん。





「元就様」
「何だ」
「家なき子みたいです」
「斬られたいか貴様」
 いや、そんな陣羽織もっこり被って膝抱えてたらそう見えますって。
 ていうかその服装で膝抱えない方が良いですって。
 あ、見てない私は何も見てない。
「服一式貸していただいてるじゃないですか、どうして陣羽織しか着てないんです」
 元就様の傍らには片倉殿に借りたと思しき茶色の衣装が散らばっている。
 几帳面な片倉殿らしくもなくぐっちゃりと脱ぎ捨てたように。多分、元就様が一度着てまた脱いだんだろう。
「あやつのものなど着られるか」
「どうしてです」
「着られぬ」
「いや、だからどうしてですかってば」
 まさか服の中に鉛の板を仕込んでいるという訳でもあるまい。
 百聞は何とやらで脱ぎ捨てられた服を手にとってみる。
 中国で着替えを詰めていた時には感じなかった、ずっしりとした感触。
 ああ、と得心がいった。
「大きすぎて着られないんですか」
「斬られたいか貴様!」
「だってそうなんでしょう?」
 黙られた。図星なのか。
「……悪いか」
「いえ別に。残念ながら上司を選ぶ基準の中に身長の高低は含んでおりませんので」
 片倉殿の服を畳みながら言うと、元就様はほんの少し機嫌を直したようだった。



「我の着物を持って来たのであろう。早う出せ」
「ぎくっ」
「……#奈々?」
「え、い、いやぁ勿体無いなぁ〜こんな機会もう無いでしょうし絵師でも呼んで記録に」
「斬るぞ」
「冗談ですえーっと」
 泊まりがけになるから着替え持って来いよって意味だと思って、あたしの着替え持って来ちゃいました……

「よし、そこへ直れ」
「待った待った待ったせめて普通の服着てからにして下さいそんな格好の人に斬られて死ぬのは嫌!」



お題『他キャラの衣装』
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