嫌な夢を見た。
と言っても例えば戦場の夢、戦で負ける夢、討った者達が枕元に立つ夢、
そんなものは見慣れているので今更嫌と思うまでもない。
……見慣れているといえば、一応この手の夢も見慣れてはいるのだが。
軽く寝返りを打って、隣で眠っている室の方に身体を向ける。
暢気な寝息もさる事ながら、腹を下にして寝ているのが如何にも間抜けだ。
腹に子でも居たらどうする、と叱り飛ばしてやりたいが、熟睡している人間に言っても仕方が無い。
せめてもの悪戯に鼻を摘んでやると、ふに、と殊更間抜けな声が上がった。
(ふむ)
生きている、と唐突に思った。
身近な人間が死ぬ夢を見るのは元就にとって珍しい事ではない。
だが両親も兄も義母も幼い甥も、近しかった者は皆早くに世を去った。
夢の中で死んだ者が目を覚ませば生きていた、という経験は、そういえば殆ど無かった気がする。
試しにと顔の前に手をやればきちんと呼吸している感触がするし、頬を撫でれば緩やかに体温が伝わって来る。
新鮮な感覚に夜中のはっきりとしない思考も手伝って、
ああ此れは我の手の中で今生きて居るのだな、というぼんやりとした感慨を生み出した。
「うん……?」
手の下でもぞもぞと生き物の動く気配がする。触っている内に起きてしまったらしい。
「元就様?」
「何だ」
「何だはこちらの台詞です。何ですかくすぐったい」
「貴様に言う必要は無かろう」
半分眠気に支配された思考回路を上手く説明する術を持たず、そう言い捨てて再び反対方向に寝返りを打つ。
と、ぬくもりから離れた筈の肌に再びじんわりと熱が触れた。
「……#奈々」
「はい」
「何をしておる」
「いえ、ちょっと」
もぞもぞと背後で具合の良い位置を探しているらしい気配がする。
やがて良い場所に落ち着いたのか、動きを止めるとそのまま身体を摺り寄せてきた。
「元就様」
「何だ」
「#奈々はいつでも此処におりますからね」
「……ふん」
ツンデレ7:3ぐらい期?