シリフ霊殿
Schild von Leiden

元就ブーツキャンプ
 朝起きて雨戸を開ける。
 眩しいまでの朝日。今日も良い天気だ。
 これが四国にある己の城ならば潮の香りや海鳥の声などしてくるのだが、
 少し内陸部に位置する毛利の城にはそれが無い。
 代わって庭には多種多様な植物が植えられ、四季折々の風景を見せていた。
「……ん?」
 そんな緑色の庭の一角、誰かが立っている。立っているだけでなく何かをしている。
 目を凝らすとそれがこの城の城主である事は容易に知れた。
 青々と草木が茂る庭に、日に焼けていない肌の色がよく映える。
 肌がよく映えるという事はすなわち彼が肌を露出させているという事だ。
 平素は謙虚すぎると言える程に隠すそれを惜しげもなく朝日に晒し、一心不乱に何かをしている。
 その手にあるのは、竹か何かで作られた細い輪。
 形状からして丁度彼が戦場で扱う武器によく似ている。
 彼はまるで武器を扱っているかのように輪に身体をくぐらせ、両の手を放した。
 重力に従って落ちてくるそれを、胴を拍子良く揺らす事によってその場に留める。
 下に落ちてしまったら拾い上げてまた同じ事の繰り返し。
 思わず呆然と見入ってしまった。声を掛ける気さえも起きない。
 ふと、視界で揺れる何かに視線が行った。
 それは彼の動きに合わせてゆらゆらと揺れ、裸身を晒す彼の一部分を控えめに覆い隠している。
 素材は丈夫で通気性に優れた木綿、そうそれは一枚の



 ふ ん ど し



「も、元就様ご乱心んんんんんん!!」
 叫びながらばたばたと廊下を走る。誰に奇異な目で見られようが構わなかった。
 つーか、出来るだけ真面目な言葉を選んでモノローグ綴って来た俺を誰か褒めてくれ。
「長曾我部様。元就様が何か?」
 丁度朝食を運んで来てくれたらしい侍女が話し掛けてきた。
 ちなみに名前は#奈々、元就の一番傍に仕えている。
「な、何か毛利がフンドシ一丁で腰振ってて……」
「ああ、あれは元就様の毎朝の日課ですよ」
「日課ァ!?」
 思わず大声を出してしまった。
 あいつの日輪信仰は知ってるから、早起きなのも日輪に向かうのも驚きはしないが、
 祈るならまだしもほぼ全裸で腰を振るとは……どんな宗教だよ、おい。
「腰の輪は元就様が南蛮人の教祖とやらからいただいたものでして。
 ああして回してると、腰が程好くくびれていいんですよ」
「お前もやってんの!?」
 まさか裸で?
「はい、私は襦袢でですけど」
 なーんだ。いやいやいやいや。
 つーか#奈々はともかくあいつは腰くびれさせてどうしようってんだ。

「ところで、長曾我部様」
 は急に真面目な顔になると、声をひそめてこう聞いてきた。
「今日の元就様、どのような褌でしたか?」
「は?」
「元就様の褌の色や柄で、その日のご機嫌などが分かるのですよ」
 何だそりゃ。
 またしても突っ込みたい事が出来たが、ぐっと堪えて記憶を辿る。
 本音を言うとものすごく、思い出したくないんだが。
「……白?」
「そうですか……」
 俺の答えを聞いた途端、#奈々は嫌に真剣な表情で俯いた。
「お、おい、どうかしたのか?」
「白という事は……元就様、近々戦を起こすお心算なんですね」
「待て」
 それが事実だとしたら毛利の動向が知れて嬉しい限りだが、
 どうしてフンドシを根拠にそんな事が言い切れるのかがちっとも分からない。
 つーか、白って割と平均的な色じゃね?
「えーとその何だ、毛利が白いの締める時ってそんな重要な時なのか?」
「はい。元就様が白い褌の時、それはすなわちその布が返り血で真っ赤に染まるまで敵兵を斬るという……」
「そいつは何処の特盛だ」
 何でフンドシ一丁で輪刀担いで戦場に出て行くんだよ。
 先刻竹の輪持ってた毛利とそっくりだから否定しにくくて仕方が無い。
 とりあえず、次の戦に毛利がフンドシ一丁で来たら退却する事に決めた。



お題『ふんどし』。真面目に書く気は欠片もなかった
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