「奈々」
「はい何で」
がっ。
「ここは地形が少々入り組んでおる故、斥候の際には心得……聞いておるのか」
「聞いへまふふいまへんひょっほ待っへくらはい」
今ちょっと貴方の背後で悶えてるんで。
いや、こっち向いてこっちに話してんのにいきなり後ろ向くとは思ってなかった。
前歯欠けてないかなこれ元就様のオクラまじでちょういたい。
まぁ一応このオクラは兜で、兜たる為にそれ相応の強度を持っていて、
だから痛くて当たり前なんだけど何ていうかこう、ぶっちゃけ何で微妙にひん曲がってんのかなこのオクラ。
ぶつからないように気をつけててもこの絶妙な曲がり具合の所為で時々目測狂うんだよね。
「良いか?」
「はひ」
そしてこの人はどうも私の苦しんでいる理由が自分の兜だとは気付いていないらしい。
あれ、兜にものが当たった衝撃って被ってる本人には伝わらないのかな。
「地形が複雑だから斥候の際には重々気を付け、あわよくば敵陣への道標を作っておけという事ですよね」
「うむ」
ああっ振り向き直さない方が、今捨て駒の顔面にいった。
ていうかマジで当たったの気付かないんだなこの人。悶絶してる捨て駒が視界に入らないのはまぁデフォルトとして。
「何ぞ気になる事はあるか」
「……あの」
やっぱりここは一つ改善を勧めてみるべきだと思うんだ。顔面打撲の被害者を少しでも減らす為に。
それも、怒らせないように出来るだけ遠回しに。
どきどきしながら言葉を選んで口を開く。
「その兜の形状は……その、何か策でもお有りなんですか?」
「……何?」
心なしか目が細まった気がしたので慌てて言葉を足す。
「いやっあのえーと、もし何かお有りなのでしたら言っていただければ、
それを念頭に置いて行動する事で風評や誘導などで何かしらお役に立てられるのではないかと」
慌てて言った事だけど、これは偽らざる本音。実際一回立ったんだ。
『実は兜が本体なんですよ』って噂流したら、戦場で皆兜狙ってた。
お陰で苦戦したのに元就様ご本人は軽傷で済んだという……言えないけどね。
「ふむ……策、か」
あれっ何か考え出しちゃった。
「いやあの無いんでしたら無理に捻り出さなくても結構なんですけど」
「使えるものは最大限使うが戦の定石ぞ。使い道があるのならば使わずにどうする」
「まぁ、あの、それは、そうなんですけど」
ていうか今の台詞で確信したこの人絶対今まで何も考えてなかった。
お題『オクラ』。取ると如実に身長縮むと思う