シリフ霊殿
Schild von Leiden

お狐様はご主人がお好き
『あるじさま、あるじさまっ』
『んー?』
『次の町へは行かれぬのか?』
『うーん、行きたいのは山々なんだけど、次のジム結構強いらしいんだよねー。
 だからこの辺でちょっと特訓してから行こうかなって』
『……』
『元就?』
『……われが、ふがいないせいで……』
『良いんだよ、元就はゆっくり強くなれば。別に急ぐ旅でも無いんだし』
『しかし、』
『ほら、お膝おいで。ブラッシングしてあげよう』
『……うむ!』

 昔は良かった、なんて年寄り臭い事を言う気も無いけれど。

「元就、行けっ!」
「何故我が……」
「お前ポケモン!私トレーナー!今バトル中!!」
「あのような雑魚、我が出るまでも無かろう」
「普通バトルになったら連れ歩いてる奴真っ先に出すだろ!?
 いーんだよ別にお前引っ込めて他の奴出しても!他の奴も可愛いもん!」
「……」

 誰かこの反抗期ポケモン何とかしてくれ。





 進化してレベルが上がったポケモンが言う事を聞かなくなる、というのはよくある話。
 昔は可愛かったのになんて愚痴を聞かされる事も少なくない。
 けどあれって交換やらで他のトレーナーに育てられた事のあるポケモンの話だった筈で、
 小さい頃から自分の手で育ててきたポケモンが言う事聞かなくなる話は聞いた事が無い。
 ていうかちゃんとレベルに見合ったバッヂまで持ってるのに何で駄目なんだろう。
 ただの反抗期とも考えたけど、そもそもポケモンに反抗期ってあるんだろうか。
 いや、倦怠期くらいはありそうだけど。

 という訳で目下あたしはまともにバトルも出来ない日々が続いております。ほんと誰かどうにかして欲しい。
「来るよ、元就!気を付け……」
「これしきに苦戦する我では無い。心配は無用ぞ」
「苦戦しないからって突っ込むんじゃない!苦戦しなくても無傷じゃ済まないでしょーが!」
「貴様の手を煩わせる事はせぬ。薬などは用意せずとも良い」
「そーゆー問題じゃないって!手は煩わせてないけど気が煩わされてるよ!たった今!」
 怠けて戦闘をしないなんて事は無いからまだましだとは思うんだけど、
 例え反撃されようともとにかく敵に突っ込んで行く。
 どうせ勝てる相手ならさっさと勝ちに行けば良いっていうのが本人(本ポケ?)の主張らしい。
 でも防御力高くたってちょっとはダメージ通るんだからこっちとしては心配でならない。
 元々あたしは手持ちの傷が出来るだけ少なくて済むように指示を出していたから尚更だ。
 それだといざという時に不利になるって言って勝手にやりだしたのがあの戦法だから、
 考えてみるとやっぱり元就のあれは反抗期とは少し違うのかもしれない。
 じゃあ何だって言われてもあたしには答えられないんだけど。



 バトルが終わってすたすたとあたしの所に戻って来る元就。
「お疲れ様、元……」
「座れ」
「は?」
「戦闘で疲れた。我は休むゆえ膝を貸せ」
 あの、あたし一応あんたのトレーナーなんですけど。
 バトル相手だったトレーナーも珍しそうな同情するような目でこっちを見ている。どうもすいません。
「怪我大丈夫?ポケセンとか要らない?」
「要らぬと言っておろう。早う膝を貸せ」
「はいはい。ほらどうぞ」
 膝の上に頭が落ちると、ふっさりとした尻尾があたしの頬を撫でた。
 うん、この尻尾だけは今の方が良い。手触り的な意味で。
 キュウコンの毛並みは伊達じゃないぜ。
「ねぇ、寝てる間これ撫でててもいい?」
「好きにせよ」
「あのさぁだからあたしトレーナー……」

 まぁ、いいか。



狐耳というお題で。何故pkmnにしたし
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