シリフ霊殿
Schild von Leiden

元親君の光源氏観察日記
 弥生某日 例の件を実行に移す為、中国は郡山城を訪れる。





「去れ」
「待って待って!襖閉めないで!」
 同盟結ぶ前とか豊臣からの密偵が入り込んだ時とか、毛利との関係が緊迫状態に陥った時はいくらでもあったが、
 こんなハラハラしながら郡山城に入ったのはこれが初めてのような気がする。
「何だよお前急に締め出したりして、ツンデレ週間かぁ!?」
「人を勝手に長門有希か富士見桜と同列にするな!
 貴様がそうして土産以外に何か持ってくる時は大抵厄介事であろうが!」
「いや富士見桜はマイナー過ぎるだろ!
 確かに公式でツンデレ系って表記されてたけど知ってる奴多分いねぇから!」
 お陰で来た早々襖相手に力比べをする羽目になった。



 本題に入れたのは四半刻後。
「こいつなんだけどよ」
 後ろに隠れていた#奈々を見せると、元就は案の定眉間に皺を寄せた。
「この前大陸まで船を出した時に、土地の奴から引き取ったんだ。
 持ち物から見るに日の本からの漂流者らしい。ただ、記憶を失っててな。
 言葉も聞いて理解する事は出来るらしいが、喋れるのも向こうの言葉だけだ」
「……それを、我にどうしろと?」
「身寄り探しがてら、しばらく預かってくれねえか」
「断る」
 即答かよ。
「そう言うなって、潮の流れからして中国あたりから来た可能性が一番高いんだよ。
 歳は多分七つかその辺だ。一人で生きてける歳じゃねぇし、荒くれ揃いの俺の船に長い事乗せとくのも哀れだろ」
 何とか食い下がると、流石の元就も次第に断りにくくなってきたらしい。
 ちらり、と友好的ではないが興味を持ったような視線を#奈々に向けている。
 歳の程は六つか七つ、下手をすればそれより幼い。
 俺と野郎共で選んで買った、真っ赤な着物を身に着けている。
「……一月だ」
 しばらくして元就が根負けしたように言った。
「一月経って親族が見つからなければ、貴様の元に送り返すからな」
「おう」
 つまり様子見、って事か。
 幸いにも様子見を延長させる口実ならいくつかある。
 俺は笑って#奈々の頭を撫でてやった。
「良かったなー#奈々、今日からこいつが哥々だぞ」
「ぐーぐ……?」
 大陸の言葉が分からない元就が首を傾げる。
「兄上って意味だ。出身も知れねぇのに様付けで呼ぶのも何だろ」
 #奈々を抱き上げて元就の腕に預け、色々と言われる前にさっさと踵を返す。
 実は言うと怒るだろうから口には出さなかったが、#奈々を預けたのは元就の為を思っての事でもある。
 昔どっかで聞いた所によると、小さな子供や動物の傍に置く事によって心を癒す治療法があるらしい。
 異国のもんだから名前が難しかったな……『あにまるせらぴー』だったか?
 試してみるだけの価値はあるかもしれない。
 密かな期待に胸を膨らませながら、俺は郡山城の門を出た。





 門の外には腹いせのつもりか、先の手「発」が仕掛けてあった。



幼女ヒロインも大好きです
前<< 戻る >>次