シリフ霊殿
Schild von Leiden

Bから始まる合言葉
「#朔夜」
「何だ元就」
「昼ぞ」
「まぁ、四限終わったしな。何だ、腹減ったのか?」
「うむ」
「お前、好い加減弁当持って来るか買うかくらいしろよ」
「其方の作った物の方が味が良い」
「何だそりゃ、無意味に舌肥やしやがっ……」
 なぁ、ここって共学だったよな?
 何なんだこの男子校にありそうな男からの粘っこい嫉妬の視線は。
 いや、女子からの好奇な視線がプラスされている分男子校より始末が悪いか。
 えーと、何つーんだっけこういう女子の事、確か腐って字を使って……違う、豆腐じゃない。
「#朔夜?」
「いや、何でもない。どこで食う?やっぱ屋上か?」
「無論だ。今日は日輪が良く照って居られるのでな」
「はいよ」
 ま、しょーがねーか。
 俺と元就の仲だしなぁ。


 言っとくが俺と元就がデキてるとかそーいうんじゃ無くて。





 家が隣で、家族ぐるみで仲が良くて、双方とも親が共働き。
 子供達が自分で家事をするようになるのも、当然といえば当然だろう。
 ただその幼馴染の片割れがメキメキと家事の腕前を上げていくのに対して、
 もう片方、つまりこいつは余りにも不器用すぎた。

 掃除をすれば掃除機を壊し、洗濯をすれば服を破り、料理を作れば八割が炭の二割有害物質だ。
 制服を着るにしたって下手すればネクタイで自分の首を絞めそうな程の不器用さ。
 そんな元就の面倒を見るのは必然的に幼馴染の片割れ、俺に限られる訳で。
 今更一緒に食事摂ったり家帰ったり風呂入ったり寝たりするのに違和感は無い。
 おかしいとか羨ましいとか思う奴らは一日こいつの面倒を見てみれば良いんだ。
 一日二日なら喜んで貸すから。
 朝日を見たいと強請る癖に朝に弱い元就を起こす所から始まり、
 洗顔着替え朝食登校昼食下校にお隣の家の分まで家事をあれやこれや。
 我ながら良く十数年間もこいつの面倒を見てこられたもんだ、と思う。



 はむはむとおかずを口に運ぶ元就。
 相変わらず妙な視線は消えない。
 これ、多分尾行られるか覗かれるかしてるんだよな。
 つか、おいそこのでかいの、物陰に隠れてんのモロバレだぞ。
「#朔夜」
「ん?どした?」
 周囲に気をやっていて、元就がこちらを見ているのに気付かなかった。
「食べぬのか?」
 訂正しよう。
 元就が見ているのは俺じゃなくて、俺の弁当箱だ。
 注がれる視線を意訳するなら、『食べぬのなら寄越せ』といった感じだろうか。
「……全部は食うなよ」
 この大食らいめ。あればあるだけ食うんだからな全く。
 もしお隣の毛利さん家が元就の分の食事代を支給してくれていなければ、
 うちのエンゲル係数はさぞかし大変な事になっていただろう。
「ほら、ついてるし」
「む?」
 頬についていた食べカスを指で拭ってやる。
 食べ方はものすごく上品なのに、どうして頬にこんなものがつくんだろう。

「キャァァァ!」
「萌えるわ〜」
「そのまま唇奪っちゃえば良いのに〜!」

 ……何だ今のは。
 自重しない叫びに思わず元就の頬に指を触れさせたまま固まってしまった。
 つか、俺はお前らのエロ本じゃねえぞ、おい。
「……#朔夜、あれは何の集団だ?」
「いーの、元就は知らなくて!」
「何故#朔夜が知っているものを我が知ってはならぬのだ」
「いや、知ったら絶対に腹立てるからさお前」
 自分やこいつがあいつらの脳内でどんな目にあってるかなんて考えたくも無い。
「我を愚弄するような内容であるなら、余計聞かぬ訳にはいくまい」
「……えーと」
 幾ら何でもあの内容を元就にそのまま伝える訳にはいかない。
 内容以前にまず理解が出来ないだろうからだ。
 元就は成績は良い癖にそっち方面の知識にはまるで疎い。
 多分メイクラブと率直に言ってみた所で、五月部とは何だ?とか何とか真顔で首を傾げるに決まっている。
「あ……あーそうだ元就、今日の晩飯どうする?親御さん今日も遅いんだろ?」
 迷った挙句に話を逸らす。
「我が決めて良いのか?」
「まぁぶっちゃけ、毎日献立考えるのも面倒だしな」
「ならば……日輪カレーを」
 元就の眼が心なしかきらきらしている。
 よし、とりあえずそっち方面からは逸らせた。
「ああ、あの真ん中に目玉焼き乗せた奴な。了解」
 俺の背中にはまた新たに視線が刺さって来ている訳だが。
 さっきの元就程ではないにしろ、視線で何かを訴えかけている。
 お前そうやって食い物で釣っといて、家でこれこれこうするつもりなんだろうとか。
 つかもういっそ今ここでこれこれこうしてしまえとか。後者は女子共だ。
 しねぇよ、とだけ言っておこう。声には出さないが。
「あ、元就耳の後ろもっとよく洗えよ!年頃のオトコノコがだらしねーなぁ」
「はぁっ!? あ、洗っておるわ!愚劣な!」
「お前不器用だから足らねーんだろ。
 今日は一緒に風呂入ってやるから、よく洗えよ」
 まぁ、しょーがねーか。俺と元就の仲だし。


 言っとくが決して俺らがデキてるとかそーいうんじゃ無くて。



時々書きたくなる男主人公夢
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