シリフ霊殿
Schild von Leiden

いい加減にしなさい
「Hey、そーいや聞きたかったんだけどな」
「あぁぁぁぁぁっ!」
「な、何だよ」
「ムネたん何て事を!恒例になっていた大事な冒頭の会話を!」
「何だ恒例って」
「チカたんとあたしが馬鹿話して『毛利様だからです←結論』ってモノローグして、そこから毎回話が始まってたじゃん!
 それを、それを……大事なお決まりパターンを……っ」
「いや、良いだろ別にこだわんなくても」
「こだわりますよ!一つ一つがあたしの大事なアイデンティティですよ!
 大体この話元々ただの単発ネタだったの知ってる?
 それが何故か人気が出たから調子に乗ってシリーズにまでなって、一番迷惑被ってるの誰だと思う?あたしですよ!
 このシリーズ全部あたしがやらかした馬鹿を中心にした話になってるんですよ!?
 放言を毛利様に真面目に受け止められデレに翻弄されラブコメに持ってかれ、
 ああそうだきっと作者もネタが無くなって困って来てるんだそうでなきゃこんな……」
「分かった、言いたい事は分かったからとりあえず落ち着け!」





「……本題に入って良いか?」
「もうちょい待て。とりあえず、これでも飲め」
 ごくんごくんごくん。ぷはぁ。
 うーん、どうせお茶ならこの季節ホットにして欲しかった。
「落ち着いたか?」
「うんまぁ」
「俺が萌えキャラなら『まともに始めなさいよっ!』ぐらい言ってやるんだけどな」
「「言えば良いのに」」
「ハモるな」
 えームネたんなら某ツンデレちゃん十分いけると思うのに。
 あ、でもやっぱりツンデレといえば毛利様なのかなぁ。
「……本題入るが、聞きたかったんだけどよ」
「うん何?」
「お前と毛利って正直何処までいってんの?」
「は?」


 ペットボトルをゴミ箱に放り投げ損ねてチカたんの頭にクリーンヒットさせました。

 まぁ鼻から緑茶噴くよりはまっとうな始まり方かなと思ってる。


「……ムネたん一つききたいんだけど」
「What?」
「その仮説、誰かに言った?」
「何だよ仮説って」
「ニュアンスです」
 だってほら何処まで行ってるんだなんて聞き方をするって事はつまり、
 あたしと毛利様が少なくとも何処かまでは行ってるだろうって推測してるんでしょ。
 そんな推測を確証も無しに誰かに言いふらされた日にはほら、ムネたんじゃなくあたしがスレイヴに〆られる訳でして。
 当人としては中々切実な問題だと思うんだけどどうでしょう。
「ンな趣味はねェよ」
「あぁそれは良かった、ムネたんだけ〆れば済む話なんだね?」
「おいこら待て」
 冗談です冗談。
「で、じゃあマジでお前と毛利は何でもねぇんだな?」
「何なら念書でも書くけど」
 落書き用の自由帳を一枚ひっぺがし、サインペンですらすらと文面を書く。
 『#奈々と毛利元就は何でもありません。以上』
 あ、これじゃあたし達が人間ですらないみたいじゃん。
 破って書き直し。#奈々と毛利元就は恋愛関係ではありません、と。
 まぁこれで良いか。
 ハンコが無い上に血判を押す度胸も無いのですらすらと下に名前を書いて終了。
「はい」
「いや、渡されても困るんだが」
「え」
 思いっきり作っちゃったよ。
「大体、お前一人が念書書いたから何だっていうな」
「ああそっか、毛利様にも書いて貰わないといけないよね」
「待て」
 教室を出て行こうとした所でチカたんに制服の首根っこを掴まれた。
「なーにーチカたん」
「いやお前それは不味いだろ」
「え、何で」
「何でってそりゃ流石に毛利が可哀……いやその、あー……毛利に悪いだろ?」
「え、あ、そっか、最近忙しそうだもんね。んじゃ休憩にお茶でも淹れがてら」
「Stop。俺も今ので察した、Stop」
 二人して何よぅ。
「何でお前が毛利に茶を淹れるんだ?」
「あれ、毛利様コーヒー派だっけ」
「そうじゃねぇ」
 やっぱこいつに遠回しな事言っても無駄か。Yes,ストレートに行け。
 二人で肩組んでぼそぼそ話しても聞こえてますよ失礼な。

「……
 くるりと振り向いたチカたんが急に真面目な顔になった。
「お前、毛利がお前の事どう思ってるか知ってんだろ」
「……うんそれは、まぁ」
 一番最初に聞きました。
 最初は根も葉もない噂だと思って、次は何かの間違いだと思って、
「それをどう思うかはまぁ、お前の勝手だけどよ……
 あいつの気持ち分かってて踏み躙るような真似だけは、しねえでくんねえか」
「……あのさ」
 そして最後には諦めたんだ。



「二人が何勘違いしてるかは知らないけど、

 あたし毎日毛利様のとこお茶淹れに行ってるからね?」



 チカたんとムネたんの目が揃って点になる。
 わぁ、イケメンの点目だ。珍しいね。
「……お前今何つった」
「だから、あたし別に毛利様と縁切ろうとかはしてないよ?」
 そりゃー有名人と親しくするにはそれなりの度胸が必要でしたが。
 知ってる?あたし生徒会室のお茶っ葉の場所知ってるんだよ?
 毛利様の好みとかもまぁ……烏龍茶淹れたら文句言われたからああ緑茶が好きなのかなぁとかその程度には。
「だっ……てお前、さっき毛利とは」
「念書書いた奴?うん、何処までも行ってないよー」
「行ってんじゃねーか!」
「え、何処まで行ったかってキスとかアッー!とかしてるかって事じゃないの?」
 それは断じてして無いですよ。ほら、毛利様に触られたらあたし孕むから。
 たまーに一緒に帰るけど手を繋いですら居ないから。
 お茶を淹れた時にうっかり手が触れ合うなんて王道シチュエーションも無いから。
 まだ。
「んっだそれ、騙されたー!」
 ムネたんが叫んで床に転がった。
「あっはっはっは、騙したー」
 別に騙そうと思って騙した訳じゃ無い心算なんだけどね。
 さ、ひとしきり満足した所で毛利様のお茶淹れに……



「遅い」
「はぅっ!?」
 何時の間にか教室の入り口の所に毛利様が立ってあたしを睨んでいる。
 仁王立ちでも無いのに威風堂々として見えるのはやっぱり毛利様だからかな。
「昼休みは終わったぞ。本鈴が鳴る前に席に着け」
「は、はい」
「あれ毛利、お前クラス隣だろ?」
 ムネたんと同じく床に転がってたチカたんが起き上がって尋ねる。
 そういえばそうでしたね。
 でもまぁ大方生徒会室での仕事の帰りに寄っただけだと思うよ。
「何、今日に限ってそこの阿呆が茶を淹れに来なかったのでな。
 今日は有名店の和菓子を茶請けに持って来ると息巻いて居った癖に」
「あああああそうでしたぁぁぁ!」
 そうだった折角ドライアイスまで付けて持って来たのに!
 さっきから何かカバンから煙出てんなーと思ってたらドライアイスじゃん!
「これdry iceかよっていうかンなもん学校に持って来んなお前」
「すすすすいませんすいません放課後には必ず……!」
「ガン無視かよ」
「生憎溜まって居た仕事は昼で片付いた。授業が終わったら帰る」
「じゃあえーとえーと、賞味期限今日までだから……」
「放課後我の教室まで来い。家で食べてやる」
「あ、はーい」
「待て。」
 ムネたんそんな力込めて肩掴まないで痛い。
「お前等本っ当に何でも無ぇんだよな?」
「はいありません。まだ」
「まだって何だ、何時かはどうにかなるってか」
「そういう予定はありません。まだ」
「だからまだって何だよ!」
「それこそあれだよ、毛利様だからです←結論」
「答えになってねぇぇぇぇ!!」
 何ですか結局二人ともあたしと毛利様にどうなって欲しいんですか。



そろそろタイトルのネタが切れてきたんだと思う
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