「おい、知ってっか」
「なーにーチカたん」
「お前さ、いい加減にその呼び方止める気ねえ?」
「えーいいじゃん毛利様だってナリたんって呼んでも良いって言ってくれたし」
「ありゃ単にどう反応して良いのか分からなかっただけだろ」
「それで何を知ってるって?」
「いや、その内嫌でも分かると思うんだけどな」
「言いかけて止めるを繰り返してると将来嫌われます」
「暇だから毛利にまた新しく吹き込んどいたぜ」
生まれて初めて机を蹴り倒した。(イッテツ返しがきっと今なら素で出来る)
「うおぉ!何すんだお前!」
「そりゃこっちの台詞でしょうが!
確かにこないだのあれで毛利様騒動っぽいもんは一段落したけど、
何でそこでさぁ新シリーズ展開みたいな事やらかしてくれてんですか!
人気が出たアニメの第二期じゃないんだから余計な事しないでくれませんか!」
しかもよりにもよってお前の入れ知恵か!(=つまりそっち系の知識)
あの人そういう関連の事全部鵜呑みにするからほんと勘弁して欲しいんですけど。
「で、らきすたにハルヒときて今回は何?」
「ハルヒはお前が言い出したんだろうが」
「そんな事この際どうでもいいから今回は何ですか」
「本人に聞けばいいだろ。つか、ついでに手取り足取り教えてやっちゃどうだ?」
「駄目でしょ!」
「即答かよ」
「毛利様に触れられたらあたし、孕む!」
「……なぁ、その妙な偏見マジでどうにかならねえか」
「……いつもの台詞、参りましょうか?」
毛利様だからです←結論。
(つーかお前、保健室に連れてって貰った時とか触れられてたんじゃねえの?)
(あれは触れられた瞬間に気絶したんでノーカウントです。)
前略ブラウザの前の閲覧者様。
これこれこういう訳であたしこと#奈々は毛利様とお近付きになれました。
というか、なりました。
近付いて初めてその人の本質が見えてくるという事もままあります。
毛利様はまぁ何と言うか、昔から馬鹿と何とかは紙一重といいますがその通り、
簡単に言えばどうも他の人間とは一線を画しておられる方のようで、あたしとしては大変反応に困ります。
やー流石チカたんの幼馴染やってられるだけはあるわ。
「……お呼びでございましたでしょうか」
「うむ」
そしてあたしの現在地、生徒会室with毛利様。
他には誰も居ない。いつも外にたむろしてるスレイヴさえも居ない。
何で居ないかって毛利様が帰らせたから。
相変わらず恐ろしくてスレイヴの群れを掻き分ける事が出来ないあたしは、
ありがちに仕事が終わるまで傍で待っているというのが出来ない。
そもそも何でそんな事しなきゃいけないのかって呼び出されたからなんだけどね。
(多分チカたんに吹き込まれた踊りを教えろとかそんななんだろうなー……)
ぶっちゃけスレイヴが怖いので今まで通り眺めていれば満足ですと言ったら、
チカたんがものすごい優しそうな目をして毛利様の肩を叩いた。
そして毛利様は「散れ!」の一言で生徒会室前のスレイヴを解散させた。
ふらふらと散っていったスレイヴ達の恍惚とした表情は今でも忘れられない。
とにかくそんな訳で放課後の生徒会室に毛利様と二人きりです。
(あれっ、デジャヴ)
「ええと、……何かあたしに聞きたい事がお有りで?」
「これなのだが」
取り出したのは何処で調達してきたのか二本の緑と白の野菜。
あっ、すごい嫌な予感がする。
「持っている内に萎れて来る気がするのだが、布など巻いておくべきか?」
いや、それより先に臭いな気がします。違うそういう問題じゃない。
「……あの、毛利様」
「その呼び名は止めよと再三言った筈だが」
「すいませんそうでした。じゃあナリたん」
「……まぁ良い。何だ」
「チカたんに何踊れって言われました?」
「さて」
毛利様はちょっと空を見た。
あっこれ相当マニアックなの来るね。毛利様が一発で覚えられないようなのが。
「長曾我部からは葱を使うとだけで、後はに教われと言われたのだが……
確か、み、みっくみく?と言ったか」
Darlin' Darlin' A M U S E!! (おねーさんびっくりだ!)
「それ、止めませんか」
「? 何故だ?」
「や、流石に式典の壇上でネギ持って踊るのはちょっとなァと」
絶対らきすたよりハルヒより何か瓦解する。
「農業大学では踊っていると聞いたが」
「それは大根ですっていうかあんた農大と何の関わりも無いじゃないですか!」
緑か?緑か?それともかもすのか?
「お願いします勘弁して下さい、代わりにあたしが踊ってもいいですからマジでみっくみくだけは勘弁して下さい」
生徒会室の床に額を擦り付けて懇願する。
いつも地べたに這いつくばってるスレイヴを笑えないな、これ。
けど女にはやらなきゃならない時ってのがあるんだよ!いやホント。
ね、毛利様がなっりなりにする代わりにあたしが#奈々っ#奈々にしてあげますから。
何だ#奈々っ#奈々って。変換スクリプトの限界、ああそう。
「何だ、また其方が言い出したのでは無いのか」
意外にも毛利様はあっさりとネギを放り出した。
「え、あたしだと思ったんですか」
「うむ」
そんなきっぱり肯定しなくてもさ……
何ですか貴方の中であたしってとことんそんなキャラですか。
「やりませんよ嫌だなー、チカたんがニコ動か何かに触発されただけですよそれ。
大体あたしの今のマイブームはごっすんとかえーりんえーりんとかですから!」
「……」
あっ、しまった言っちゃった。
しかも思いっきりえーりんえーりんとかジェスチャーやっちゃった。
……しばしの沈黙。
「ごss」
「踊りは無いですよっ!?」
「……そうか」
はー、はー……やべーやべー、流石にそんなもん躍らせたりする訳にはいかない。
毛利様におっぱいおっぱいとか歌わせる訳には断じていかない。
スレイヴより先にあたしが瓦解する。
「……つか、何で毛利様はいちいちあたしの言った事真に受けるんですかぁもー」
突っ込み疲れた息を整えながらあたしはずっと聞きたかった事を聞いてみた。
知らない事に興味を持つにしても限度ってものがあるだろう。
しかも原因はチカたんとかあたしの冗談とか全部あたし関連ときたもんだ。
これじゃ迂闊に萌え語りも出来そうに無い。
(うっかりコスプレ萌えとか言った瞬間に衣装調達させそうだもんなぁこの人)
「其方が言うからであろう」
毛利様はハンカチで手を拭いながら涼しい顔をして一言そう言った。
「え、責任全部あたし?」
「有り得ぬと言ったり好きだと言ってみたり、全く付いて行くのに骨が折れる」
「付いて行くのにってそんな、別に付いて来なくても」
思いっきり睨まれた。怖い。
怖い、けど、その視線が段々拗ねた子供みたいになっていくのに気づいて怯えるのを止めた。
「……其方のような阿呆には分からぬ」
すいませんね阿呆でどーも。
「何も知らぬ風情のその顔を見ると、苛々してくる」
いつだか見た事のある表情だ、と思った。
表情じゃないかもしれない。けど態度とか雰囲気とか、あえて言うならオーラ?
何ていうか、モードチェンジ。
ツンからデレへ、毛利様からナリたんへ。
(そうだ、あたしこれ見てナリたんって呼ぼうって決めたんだった)
「毛利様……いや違う、その、えっと、……ナリたん」
散々迷った挙句に手を差し出してみた。
「……?」
「うん、ナリたん」
今度から萌え関係ないからってやたらたん付けするの止めよう。
いざという時に間が抜ける、これ。
「よう毛利、どうだ?手取り足取りしてもらってっか?」
ああ、あれだ。
今時流行りのKYってこういう人の事言うんだよきっと。
でも何となく腹立つから今日は冥福は祈ってあげない。
乙女具合を隠し切れなくなってきた期