シリフ霊殿
Schild von Leiden

月曜日なのに機嫌が悪い
「おい、知ってっか」
「なーにーチカたん」
「チカたん言うな」
「おやおや、たん付けイコール萌え系という方程式を成り立たせるつもりですか?」
「んなもん成り立たせるつもりはねえが何か不快だから止めろ」
「それで何を知ってるって?」
「いや、結構有名な噂なんだけどよ」
「要点を簡潔に述べる癖をつけないと将来困ります」
「生徒会長がお前に惚れてるって話」


 飲んでた緑茶を鼻から吹いた。(小学校の時牛乳でやって以来だ!)


「ばっ……おま、きったね!」
「だだだだだだってあんたしょーがないじゃん鼻と口は繋がってんですよ!
 ていうかただでさえ恋愛沙汰と縁がないあたしなのによりにもよって毛利様って!
 あの人があたしに惚れるとか、式典のスピーチの壇上でらきすた踊るくらいありえないですよ!」
「何だよその毛利に対する妙な偏見は」
「だって毛利様だもん」
 毛利様だからです←結論。





 うちの学校の生徒会長、毛利元就。
 通称『毛利様』。
 この呼称を用いるのは主に生徒会長ファンクラブ会員(通称『スレイヴ』)で、
 あたしは別にその一員という訳じゃないけど毛利様と呼んでます。
 ややこしいな。
 要するにあたしがあの人を様付けで呼んでるのはあれだよ、ネタ。
 いや、完璧ネタって訳でもないけど。うーん。
 生徒会長殿本人に、そう呼びたくなる何かがあるというかですね。
 いわゆるカリスマ?っつう訳でもないのか。
 ただ、あの人は毛利でも毛利君でも毛利さんでもなく毛利『様』なんじゃないか?と。
 何となくそう思うだけで別に毛利様のスレイヴになってる訳じゃあ、
 ああもうめんどくさいな。
 とりあえずあたしは毛利様にそういう感情は持ってなかったんです。
 すごいなーとか頭良いんだろうなーとか綺麗な顔してんなーとは思ってたけど、それだけ。
「それが、向こうは持ってるってか……Ha。難儀だねぇ」
「ねえねえねえねえねえマジかな?」
「俺に聞くなよ……」
 だってチカたんショックでのしちゃったんだもん。
 他にこういう噂に詳しそうなのって後佐助と宗たんぐらいのもんなんだもん。
 (そして佐助はからかうばっかでまともに相談に乗ってくれなそうだ。)
「俺はそんなrumor知らねえぜ」
「あ、そ」
 チカたんが知ってて宗たんが知らないなんて……チカたん何処で聞いたんだろ。
「いっそ本人に聞いてみちゃどうだ?」
「駄目でしょ!あたし如きが毛利様と会話するなんて恐れ多い!」
「お前その偏見ホントどっから来んだよ」
「だって毛利様だもん」
 毛利様だからです←結論。しつこいですか。
「あのな、何を勘違いしてるかは知らねえが、奴も結局は人間だぜ?」
「別に学校帰りにUFOが迎えに来てくれるとは思ってないけど」
 あっても驚かないけど。
「じゃあloveの一つや二つしたっていいじゃねえか」
「いいですよ!それは別にいいんですよ!何であたしなんですか!」
「んなこた本人に聞け」
 あう。
 フリダシニモドルいたちごっこリングワンデルング。
 昔某ネコ型ロボットの道具にフリダシニモドルってあった気がする。どうでもいいか。
「つーか何であの人があたしなんかー……事実じゃなくても噂が立つ時点で変だよぅ」
「だよぅとか萌え系めかして言うなキモイから」
「ここはやっぱり毛利様に直々に……でもあの人何か声掛けづらいんだよなー……」
「んな言い訳して、実はお前の方こそ会長殿にloveだったりすんじゃねえの?」
「や、それはないっしょ」
「即答かよ」
「だって毛利様だもん」
 や、流石にもう結論とかは言わないですが。





 聞いてみたいっちゃ聞いてみたいんだけどね。
 内容が内容だからやっぱり休み時間とかには話し辛いし、
 放課後はあの、我ながら今更だとは思うんですがスレイヴが怖い。
 生徒会室の前にびっちり出待ちしてる首に首輪でもついてそうな集団が怖い。
 (不思議な事に集団の中に男がいるんだがまぁ全力でスルーだスルー)
 あれ潜り抜けて毛利様の所行くのなんか……無理だろうなぁ……
 口実作っても集団からすごい目で見られそうだ。何か、そんな気がする。
「どーすべ#奈々、ここが女17年正念場……根性きめてぶっこんでくっきゃないか」
「邪魔だ。職員室に入れぬ」
「あっすいません今すぐ全力で退きますんで」
 ドアのまん前に立ち尽くして唸ってりゃーそりゃ邪魔だわな。失礼致しました。
 最近学校行事が多いせいで仕事増えて大変そうだもんね、邪魔をしちゃいけない。
 ていうかあんまり毛利様に目かけられすぎるとまたあのスレイヴが……

 ……

「毛利様だよ!」
「何だ?」
「あっいやすんません何でもないです」
 あたし今何だかんだで毛利様と会話してましたよ!ごっつナチュラルに!
 しかも気付くのに毛利様が職員室に入って出てくるまでかかるとはね!
「可笑しな女よ」
「すいませんよく言われます」
「時に、らきすたとはどのような踊りだ?」
「はい?」
 思わず隣を通り過ぎて行く毛利様の顔を思いっきり凝視した。
 いつも穴の開くほど見つめてるスレイヴを笑えないねこれじゃ。
 今それどころじゃないけど。
「我が式典で踊りそうな程のものなのであろう?」
「いやあれは物の例えで、絶対ありえないだろうっていう意味の」
「我が踊ればありえない事ではなくなるな」
「理論上そうなりますねってちょっとちょっとちょっとぉ!?」
 えっまさかアンタまじで今度の文化祭とかで踊る気じゃないでしょうね。
 ていうか今気付いたけど何であたしとチカたんの会話の中身知ってんですか。
 聞いてたんですか!(あたしが鼻から緑茶吹いたとことか!)
「毛利様まさかマジで壇上であんな電波踊る気じゃ」
「様は要らぬ」
「はい?」
「その呼び方は不快だ。毛利か、呼び辛ければ元就でも良い」
「はあ」
「良いな」
「え、えと、まあ、うん、は、はい」
 何だか今日は不思議な日だ。
「六時に生徒会室に寄れ。それまでには今日の分の仕事を片付けておく」
「え、何で」
「踊りを、教えてくれるのであろう?」
「いや、教えると言った覚えはないっていうかマジで踊る気ですか」
「……言い忘れていたが」
「ガン無視かよ流石ですね毛利様、は要らないんでしたねごめんなさい。
 で、何ですか?」


「長曾我部は我の幼馴染だ」


 毛利様が職員室の前であたしに向けて発した言葉はそれだけだった。
 のですが。
 ……えっと。
 それってつまり(推理、すると 結構とんでもない結論が)



らきすたブームって何年前だと思うと辛くなるので考えるのをやめます
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