壱.
対策を講じるのは、相手の情報を得てから。
「という訳で佐助、説明」
「うんあのね、姫様ここの所風邪で寝込んでたでしょ?
せめて見舞い品の一つは持っていってやらねばって、お館様が」
「昨日治った」
「うんごめんね、今知った」
「殴っていい?」
「今度の戦で先陣切らなきゃならないから、手加減してね」
「承知!」
そして青空に舞う赤いハチマキと鼻血。
殴られた顔面を押さえて呻く幸村。その指の間からは真っ赤な鮮血が滴り落ちている。
鼻血がこんなに似合う男も珍しい。
着ている服が赤いからかはたまた本人の性格によるものかまあどちらにせよ、
「病み上がりで庭を散歩中の姫君にいきなり抱きつくとは良い度胸だねえ?」
「も、申し訳ござらぬ!某、
殿のお顔を久方振りに拝見しました故つい……」
「つい?ほう、真田幸村という武将は『つい』という理由だけで、
未婚の女の腰に抱きつき肩口に顔を埋めあまつさえ胸を撫でる事も出来るのか」
「!そっそのような破廉恥な真似は」
「しただろうが、たった今」
弐.
「殿ぉぉぉぉ!」
「ああ……はは、いってらっしゃい、旦那……」
大丈夫、骨は拾ってあげるから。
「うぜえんだよこの駄犬がああああ!」
「ぶほあ!」
血飛沫が収まった後で。
しかし相変わらず容赦の無い拳だ。
まぁ鼻血出しながら駆け寄って来られたら誰だってびびるよね。
大将との殴り合いの後真っ先にここに来たからだけど。
参.
何か、もうね。
悪い事は重なるもんだっていうのを、身をもって実感したよ。
敷居に蹴躓いて派手にこけた。それはまだいい。
足の指を打って、畳に鼻から倒れこんだ。それはまだいい。
転んだ拍子に着物の裾が死ぬほどめくれた。それはまだいい。
転んだあたしの尻が見えるような位置で、真田幸村が鍛錬をしていた。それはまだいい。
転んだ時の奇声に反応して、真田幸村が思いっきりあたしの方を振りむいた。
最 悪 だ 。
ホント、庭だったのがせめてもの救いだ。
庭ならまだ砂かけるとか水かけるとかして隠せるもんね。
この鼻血の染み。
一体鼻の奥の何処をどうやったらこんな大量の出血を見れるものか、
そして一体この鼻血の量は総量でどれくらいのものなのか、
是非とも一度一升瓶に詰めるなり何なりして勘定してみたい。
「幸村」
「は、はれんちでござるぅ……」
「ていうかお前がはれんちだ」
倒れてるのは顔を伏せたいからなのかそれとも出血多量で貧血なのか?
「破廉恥だってんなら忘れてよ。あたしだって死にたい」
何でこんなに鼻血幸村書いたんだろう