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シリフ霊殿
Schild von Leiden

記憶の探索者
「・・・これですね」
 膨大なデータファイルの中に埋もれていたナナが顔を上げる。
 データボックスの奥の奥に仕舞い込まれていた、巨大なフォルダ。
『ラベルは?』
「ガンダム第3世代当時のマイスターとプトレマイオスクルー、及び彼らに関係した人物のデータが主のようですが」
『・・・そう、それが・・・』
「ええ、ヴェーダの独立意思・・・『対話の者』ティエリア・アーデの本体です」
 縋るような気持ちでデータフォルダを見上げる。
 この星の転換期を具に見つめて来た彼なくして、対話は成立し得ない。
 けれども深い眠りについた彼は、時が来ても目覚めようとはしなかった。
 彼が待ち望んでいた時は来た筈なのに、何故。
『・・・私達が、待たせてしまったから』
 通信回線から仲間の呟きが漏れる。
『余りに時間が経ちすぎたから・・・もう、人類の事なんて見捨ててしまったのかしら』
「そんな筈はありません!」
 彼はまだヴェーダの何処かで目覚めの時を待っている筈。
 その期待にかけてナナはヴェーダの探索に訪れたのだ。
 そして今、目の前に彼が居る。彼の仲間達の記録と共に眠っている。
 全てが朽ち果て塵芥へと帰しても、尚。
「こんなもの後生大事に抱え込んでる人が、人類を見捨てる訳が無いでしょう」
 一言叫んで、フォルダの中のデータの海へと飛び込む。
 想像以上のデータ量とそれに纏わりつく感情信号に溺れそうになるが、その煌めく光が却って道標になってくれた。
 AIが人間に対して感情を向ける時に回路内で発せられるそれに似ている。
 この光の量が多ければ多いほど、その人間との繋がりは強い。
 進みにくいのを覚悟で、態と光が多い方へ進んでいく。

「・・・居た」
 フォルダのほぼ中心部、マイスターとクルー達のデータに囲まれるようにして、酷く整った顔立ちの少年が眠っていた。
 ふう、と呼吸を一つ整える。
「ティエリア・アーデ」
 声をかけると、ゆっくりとその瞳が開かれた。
 現れた瞳は泣いたかのように紅い。
「対話の時は来ました」
 周囲のデータを押し退けながら彼に手を伸ばす。
「貴方の力が必要です、ティエリア・アーデ」
 全く、探索するのに骨が折れましたよ。
 冗談めかして言うと、ティエリアは苦笑しながらナナの手をとった。



ダブルクロスのDロイスをお題にした企画
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