シリフ霊殿
Schild von Leiden

戦闘用人格
 ひょい、と右目の上にかかった前髪を持ち上げてみる。左目とは違う、獣のような金色に輝く瞳が見えた。
「……おお」
「見せるだけじゃあ、ハレルヤは出ないけどね」
「なーんだ、出たら面白かったのに」
「はは……そう頻繁に出て来られたら僕が大変だよ」
「ま、それもそうだね」
 言っても尚珍しそうにそこを覗き込んでいる#ナナに、アレルヤは密かに苦笑した。
「どういう時に出て来るの?」
「うーん……ミッションの時とか、かな」
「戦闘用人格って訳か。便利だねぇ」
「……そうでも無いよ」
「そうなの?
 アレルヤ優しいから、その代わりに戦うって割と良い奴だと思ってたんだけど」
「はは……」
 何だか頭の中で色々言っているような気がする。
 お優しいアレルヤ様だの同情されて嬉しいか?だの、あともう一つ。
 頭を抱えたくなるほど騒がしいそれを何とかやり過ごして笑顔を作る。
「僕だって、僕の意思でここに来てる。覚悟だって出来てるさ。
 ……それに、ハレルヤが出て来ようとするのは何も戦闘中ばかりじゃないし」
「へー。どんな時?」
「そうだね、例えば……」
 言おうとして口を噤む。苦笑して、先を続けた。
「ごめん、ハレルヤが言うなって」
「あはははは、そう来たかー」





「……ハレルヤ」
 #ナナが去った後、一人部屋の中で彼に向かって呼び掛ける。
「どうして教えちゃいけなかったんだい?」
 彼女が傍に居る時は、何時も頭の片隅から見守っているという事を。
「折角なんだし出て話でもすれば良かったのに」
『……出られるかよ』
 しばらくして彼らしくも無い小さな声で返事が返って来た。
 アレルヤの眼には、傍の枕を指で突付きながら縮こまっているハレルヤが見える。
『頭に血ィ上って、何するかも分かんねーだろうが』
 相棒の気が緩まない限り表に出て来る事の無い彼は、「考えるより先に手が出る」を地で行くタイプである。
 体面した途端に己がしでかしそうな事の予想ぐらいはつくのだろう。
「……ドンマイ」
 励ます心算で言ったのだが、拗ねたように煩ぇとだけ言われた。



ダブルクロスのDロイスをお題にした企画
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