シリフ霊殿
Schild von Leiden

黒い海に紅く
 宇宙船も『船』と名がつくからには船だ、と誰かが言っていた気がする。
 例えるなら宇宙は巨大な星の海、宇宙船は果て無きその海を往く船。
 成程間違ってない。まぁ宇宙の方が実際の海よりずっと大きいけど。
 さしずめあたしなんかはそこを漂うプランクトンってとこか。
 余りの過小評価っぷりに笑いすらこみ上げてくる。



『GN粒子最大散布。ヴァーチェ、目標ポイントへ向かう』
 じゃあこれは一体何と例えれば良いんだろう。
 船じゃない。そんな大きさは無いし、そもそも船の中に収納されてた訳だし。
 かといってあたしみたいな微生物でも無い。それよりはもうちょっと強く、もうちょっと自由だ。
 船より下で、プランクトンより上。魚かな。
 サメとかでも良いけど、中に乗ってる人の事も考えて、割と綺麗な奴。
「行ってらっしゃい、気を付けてね」
『……了解』
 黒い海を自在に泳ぐ、紅い眼の魚。
 魚の考えは魚にしか分からない。
 泳ぎ回ったり戦ったり、ともかくその命尽きる時まで星の海を生きる。
 うん、中々良いね。詩的で。



「……あっ、ティエリアが魚であたしがプランクトンだったらあたし食われるじゃん」
 まぁいいか。



そういえば宇宙船って言うなあ、と思っただけ
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