シリフ霊殿
Schild von Leiden

黒猫
「アンタ最近俺の事あんまり可愛がってくれなくなった」
 もう俺に飽きた?と。
 ベッドに寝転がり私の膝を枕に拗ねる貴方は黒猫。
 その内本当に尻尾なんか生えてくるんじゃないかと時々思う。
「貴方じゃあるまいし、そう簡単に飽きたりはしないつもりだけれど」
「俺、飽きっぽく見えんの?」
「だって我侭でしょう。
 あれをしてくれと言ったと思えば今度はこれだそれだと、気まぐれにも程があるわ」
 家に呼んで。部屋に入れて。膝枕して。頭撫でて。もっと優しく。
 これを我侭と言わずして何と呼べば良いのか。
「貴方の我侭を今の所私は全部聞いているのよ?一体これの何処が可愛がられていないと言うの」
 黒い毛並みがさらりと揺れた。
「これでもまだ、可愛がられていない?」
 それとも逆に、膝が痺れたから退いてとでも言って欲しいのか。
「そうじゃなくて、もうちょっと何かさ……」
 あとはぶつぶつと英語になった。
 多分、上手い日本語の言い回しが思いつかなかったんだろう。
 途中catとだけ聞き取れたので、思わず笑ってしまった。
「……何?」
「別に何も。自覚があったのかしら、と思って」
「は?」
「何でもないわ」
 大きな目をさらに大きくして私の顔を覗き込む。
 ああ、何となく判った気がする。
「大きくなったせいかしら」
「?」
「だって可愛がるというのは普通、可愛いものに対して行う行為でしょう?」
 もう一度髪を撫で、それから頬を撫でる。
 出会った時はもっと小さかったのに、随分大きくなってしまった。
 大きい方が撫で甲斐があると言えば、それまでなのだけれど。
「貴方すっかり格好良くなってしまったんですもの」
 そうそう可愛がれやしないわ、こんな大きな猫。



「じゃあ、小さければいいワケ?」
「え?」
 くるりと膝の上で丸くなる。
 本当に猫みたいだ、というよりもむしろ胎児に近いかもしれない。
「はいどーぞ。可愛がってくれていいよ」
 ……ああ、中身はまだまだ可愛いままなのね。
「はいはい」
 とりあえず、大きさは変わらないその頬にキスを一つ。

 尻尾がぴょこりと揺れた気がした。



リョーマもちょっと生意気っぽい子供くらいが好き
前<< 戻る >>次