「乾ぃ」
右手に血の滴るナイフを持って、
左手で俺の首を抱いて引き寄せて、
「またアレやってよ」
それはもうとびきりの笑顔でもって、
(失礼、これはどうもナイフというには少しばかり大きいようだ)
彼女は俺に微笑みかける。
「今度は誰だい?」
コンピューターを弄りながら俺は尋ねる。
尋ねながらネットワークに接続、いつもの手続きに入る。
「世界史のねぇ、何て名前だったっけ、忘れちゃった」
「おいおい」
「男の人だったよ。おじさんちょっと手前くらいの歳の」
「あの、若禿げ必死で隠してる先生?」
「ああうん、それそれ。何か生え際怪しかった」
「了解、彼ね……場所は?」
「駅の高架下」
「滅多刺し?」
「うん」
ちらりと一瞬、ほんの一瞬だけ、彼女の右手の刃物に視線が行く。
出刃包丁のような形状のそれは既に血糊でべとべとで、血の雫が刃先を伝って床にまで滴っている。
これが終わったら掃除もしなきゃな、それだけ思った。
(あと、本人にも風呂に入ってもらわなきゃならないかもしれない)
「駅の辺りなら、最近通り魔が出てるらしいからそれのせいにしておけばいいな」
「え、通り魔って美人?」
「大抵美人じゃない事が多いね。
これはクスリもやってるらしいから、例え元が綺麗でも酷い事になってそうだ」
「何だ。ちぇ」
「どんな美人に殺されたって、彼の死に変わりは無いだろう」
「そーなんだけどさ」
そして真実彼を殺した犯人は、俺にとっては美しい恋人だという事にも変わりは無い。
……口に出して言った事は、無いけれど。
(なあに、彼らの二の舞を演ずる気がないだけでね)
「乾」
「何だい?」
「あたし、乾の事大好きだよ」
「俺が役に立つ限り、だろ?」
それとも俺が彼らのような事をしない限りだろうか。
「やだなぁ、あたしそんな使い捨てみたいな事しないって。ほんとに大好き。
乾なら例えばあたしの事綺麗だって言っても好きだって言っても犯そうとしても、
きっちり最期まで面倒看てあげる。だって、大好きだからね」
「……それは」
光栄の至り。
表情だけで笑って、エンターキーを押す。
この中学生ども怖い