残党狩り、というのがどんな物なのか初めて知った。
明日それが決行されるという事も、その残党が毛利軍の者であるという事も、
人質としてその場に氷の眼を持つあの人が連れて行かれるという事も、
大殿が役目の済んだ彼をその場で始末しようと考えている事も。
出陣の前夜、牢から出された毛利に食事を運んだのはやっぱりあたしだった。
あたしの役目は牢の中の彼に対してだけだと思っていたのだけれど、
やっぱり皆今でも彼の眼が『怖い』んだろうか。あたしにはやっぱり分からない。
無言で食事を口に運ぶ姿を眺めながら、あたしは毛利に何と声をかけようかただそれだけを考えていた。
このままあたしが何も言わなければ、この人は明日戦場の露と消えるだろう。
あたしに二度とあの眼を見せてくれる事の無いまま。それは嫌だった。
かといって、それなら何と言えばこの人は生きて戻って来るのだろう。
それが分からない。
くのいちでも間者でもないあたしには他人の口説き方なんて心得が無いし、
例え口説いてみた所でこの人がその言葉を間に受けてくれるとは思えなかった。
「用件があるのなら言え」
毛利が唐突にそう言って箸を置いた。
そこでやっとあたしは自分が彼を穴の開くほど見つめていた事に気付く。
確かに、傍で他人に見つめられ続けては食事も摂り難いだろう。
「……貴方は明日、殺されますね」
口説くなどという高尚な事が出来ないのを悟って、完結にそう述べる。
毛利は鼻で笑っただけだった。
「それがどうした」
表情は少しも変わらない。
あたしが以前暴言を吐いた時の方がまだ動いた方だ。
だから、ああこの人は死ぬ気なんだと思った。
全て知っていて、そしてそれを何の抵抗も無く受け入れる気なんだと。
多分、あたしが何を言ってもこの人は聞き入れてなどくれないんだろう。
「……戻って来て、下さいませ」
その御身を朱に染めてでも、億万の屍を越えてでも、きっと。
俯いて絞り出した声は多分、きっと震えていたのだ。
「戻って来た暁には、この城は貴方様のものになりましょう」
それは全くほんの弾み、半ば出任せにも近い形で発した確信だった。
毛利はこの日初めてあたしに視線を向けて、どういう意味だ、とだけ言った。
その眼には一切の驚きも、怒りも、何も無かった。
数日後、門の前に殿が姿を現した。
残党の征伐時、味方を誤射しないように用いていた朱い衣を纏って。
片手にかつてこの城の主であった男の首を提げて。
「問おう、女よ」
殿はすっと眼を細めてあたしを見た。
暗く深く透き通った、凍てつくような あの
「貴様の望みは何だ」
あたしは何と答えれば良いのか分からなかった。
相互さんに差し上げたもの