シリフ霊殿
Schild von Leiden

名将
 静かだ。
 昼間は騒がしい戦場も、夜になって兵が退くと途端に静かになる。
 勝ってる方の陣営は勝ち鬨くらい挙げるかと思いきや、
 勝ってるのがうちの軍でしかもここが本陣なので殊更しんとしている。
 元就様の傍は、何時だって恐ろしい程の緊張感に包まれているのだ。
「状況は」
「はっ……!」
 報告を求められた家臣の一人が畏まって前に出る。
「周囲の砦は全て落ちました。残るは明日、本陣を攻めるのみかと」
 最後の最後まで毛利に楯突いた割にはあっけなかったな、と思う。
 大将はきっと碌な死に方は出来ないだろう。
 ……事によったら今頃もう自害しているかもしれない。
 あたしがふっと思った事はどうやら元就様も考えていたらしかった。
 愛用の輪刀を手に立ち上がると、よく通る声で兵達に指示を出す。
「これより敵本陣へ夜襲をかける」
 何の後ろ盾も無く毛利に戦を仕掛ける訳が無い。必ず何処かに助力を受けている。 そしてその証拠を掴むなら、相手が自害する前に限るだろう。
 流石、其処まで考えを巡らせておいででしたか。氷の策士と呼ばれるだけはある。
 これでは突進しか知らない猪武者が勝てる訳が無い。けれどもそれでいい。
 そうだ、それでこそあたしもお仕えする甲斐があるというもの。



「#奈々」
「はっ」
「貴様、夜目は利くか」
「まぁ一応は」
「我も出る。案内せよ」
「……はいはい」

 後はこの、大将自ら敵陣に突っ込もうとするのをどうにかしてくれれば言う事無しだ。



ダブルクロスのDロイスをお題にした企画
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