呼ぶ声がするので駆けつけようとしたが、
それよりも早く#奈々が元就の居る部屋の扉を乱暴に開けていた。
「もとなりーもとなりー」
「何だ」
「化けた」
「・・・何?」
唐突な台詞に首を傾げていると、#奈々は黙って後ろ手に持っていたものを元就の目の前に差し出した。
「・・・ああ」
見た所は主が平素好んで使っている硯。
ただ違うのは、硯には手と足が生えてきちきちと動いている事だった。
「ようここまで使い込んだな。この硯も本望であろう」
元就が手に取ると、硯は怯えたように手足を引っ込める。
「何かいきなり手とか生えてきて・・・」
「付喪神だな。年経た器物にはよくある事」
「やっぱり妖?」
「心配せずとも襲う事は無かろう。
この手のものは、自分を妖にした者を主と認めるものだ」
「・・・式神増えた、って事?」
「平たく言えばそうなるな」
元就の手の中で硯が再びきちきちと動いた。式神、という言葉に反応しているらしい。
「この子って何か出来るのかな」
「大した力は無い。一人でに墨をすっておく程度では無いか」
「あ、それ便利。じゃあ今度からお願いして良い?」
「・・・だ、そうだ。精々主の為に尽くせ」
主の手に戻してやると、興味深そうに硯を見つめたまま動かない。
それが少し面白くなくて、脇を抜けて縁側へ出た。
代償も無い式神に使える力などたかが知れているが、と言い残して。
ダブルクロスのDロイスをお題にした企画。平安パロ