シリフ霊殿
Schild von Leiden

優しい奇跡
 傷から来る熱は、本当は余り冷ましようが無い。
 いくら薬を飲ませても、熱の大元を断ってはいないからだ。
 けれどその大元である傷は大抵そう簡単に治るものでは無くて、
 長く熱に魘され続ける主君をただ見ているだけというのは、侍医として二重の意味で辛い。

「元就様・・・」
 せめてと額にあててあった濡れ手拭を替えようと手に取る。
 生温くなったそれを水桶に入れ、ついでに軽く額に手を当てた。
「・・・下がりませんね」
 本人が聞いている訳でも無いのについ敬語になってしまう。
 それだけ長くこの人の傍に居たという事か。
 命に関わる事は無いだろうけど、少なくとも後数日は下がらない。
 食事も碌に取れないのでは弱る一方だ。
 もう少ししたら重湯でも、と思いながら手を退けようとした所で、不意に病人にその手を掴まれた。
「・・・な、」
「そのまま乗せておれ」
「え、でも」
「其方の手の方が心地良い」
「・・・はあ」
 一応主君の命なのでしばらくそうしていると、やがて手の下から穏やかな寝息が聞こえて来た。
「え、うそ」
 眠った、のか。
 ここの所熱の所為で碌に眠れていなかったのに。
「・・・よく効く薬ですね」
 流石にこのままでは居られないので額に手拭を戻して、
 代わりに先刻掴んできた手をしばらく握っている事にした。



ダブルクロスのDロイスをお題にした企画
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