シリフ霊殿
Schild von Leiden

羅刹
 別に戦に行きたくない訳じゃない。戦は好きじゃないけど嫌いでもない。
 自分を制御しなくて済むから。
 ただ戦が終わって浮世に戻って来た時、どうしようもなく憂鬱になるのだ。
 ああ、自分はこんな世界にしか生きていてはいけない、と。
 自分にこんな力がある限り、うかつに恋だって出来やしない。
「……#奈々」
 ああうんやっぱりそれが一番憂鬱だな、今が一番花咲く時なのに
「#奈々!」
「はっ!?」
「これ以上刀を折るでない」
「・・・あ」
 またやってしまった。気を抜くといつもこうだ。
 私には人並み外れた力がある。日常生活に支障が出る程度に。
 制御し損ねると、どんな物でも壊してしまう。
 稽古で折った刀は数知れない、ひん曲げた銃は数知れない。
 戦の最中に武器を壊して、素手で敵に掴みかかる事もしょっちゅうだ。
 何て浅ましい、と己の姿を見る度思う。
 そしてこんな私を見る度元就様は決まってこう仰るのだ。

「貴様は戦場になど居らずとも良い」

「元就様、そんな」
「仕事は与えてやるから城に居れ」
「・・・そんな」
 そんな残酷な事を仰らないで下さい。
 この力がある以上私には戦場くらいしか居て良い所は無いのですから、
 誰かに恐れられこそすれ哀れみなど向けられてはならないのですから、
 そんな、この上私から全てを奪ってゆくような言葉を仰らないで下さい。



ダブルクロスのDロイスをお題にした企画
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