シリフ霊殿
Schild von Leiden

申し子
 幼い頃より『それ』が見えたのは我だけであった。
 側近は勿論、両親や兄上にすら見えぬ。
 当然ながら異端とされたのは我の方だった。
 立場ゆえか面と向かって忌避される事は無かったが、それでも時折変わり者だという目で見られていた自覚はある。

 このように美しいものが、何故見えぬのか。
 『それ』が庭先に現れる度、我はそれを疑問に思いながら眺めていた。
 向こうもまるでそれを分かって居るかのように、我以外に近付こうとはせぬ。
 幼い我には『それ』が何者であるのかも分からなかったが、
 とにかく他人には見えぬものが見えるというだけで優越感を得ていたものだ。
 やがて元服を迎え、戦場で刀を振るうようになって悟った。
 我は、神に選ばれし存在だったのだと。





「へー・・・うちの慈母がそんな事を」
 #奈々としてはそのような感想しか出て来ない。
 確かにあの隈取や神器が見える人間は少ないし、彼の武器を見れば紛う事無く太陽の属性を宿しているようだが、
 目の前の池で鴨と戯れているこの大神に果たしてそのような考えがあったものか。
 他人に加護を与えるなんて事を、このポアッとした神様が考え付くのか謎だ。
 というか、甚だ怪しい。
 単に信仰心の問題ではないのかとも思ったが、各人の心の安寧の為に大人しく口を噤んでいる事にした。



ダブルクロスのDロイスをお題にした企画。またしてもクロスオーバー
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