太古から伝説のものとしてその名はある。
美しい赤色の結晶だとも泉のように湧き出しているともいい、形状は定まらない。
手にしたものが世を統べる事が出来ると言われているが、それすら伝説である。
「下らぬ」
そのような物に頼らねばならぬほど己に自信が持てぬのか。
仮令伝説が事実だとしても、その石を手に入れる事を思えば効率が悪すぎる。
むしろ持って居る事で、数多の馬鹿共を引き寄せる事にもなるだろう。
それは保守的な元就にとって喜ばしく無い事だった。
故に手に入れたいと望んだ事は無い。
「下らぬ」
内応の条件に石の探索の協力を願い出てきた書状を一笑に伏す。
向こうにしてみれば何を売り渡しても惜しくない程の宝なのだろうが、元就にとっては上級の駒だ。
申し訳程度に人と金を派遣してやれば簡単に信用を得る事が出来、石という単語一つで如何様にでも操ってやれる。
実に下らぬ、が、それ故に使い易い。
『賢者の石』は、彼にとってそういう感覚のものであった。
「何か良い事でもお有りですか」
珍しく口元に笑みを浮かべている城主を見て#奈々が微笑む。
表情の裏の真意など読む事は出来ないが、彼がこの部屋を訪れる時は決まって彼に何らかの出来事があった時、
それも戦勝や敵方の城主の病死など都合の良い、喜ばしい事があった時だった。
「敵方より内応を申し入れて来た。これで策も練り易いというものよ」
「まあ、それはそれは」
嫁いだ途端に大きな戦があり、実家は不運にも男手が全滅という憂き目を見たが、
その寂しさを紛らわせるかのように彼が頻繁に尋ねて来てくれるのが嬉しい。
「条件として『賢者の石』とやらの探索に付き合えと。・・・聞いた事はあるか?」
「あれは御伽噺でございましょう」
「知らぬ。少なくとも先方はそうは思っておらぬようだが」
「伝説によれば石かどうかも分からぬとの事。
私が幼少の折に読んだ書物では、美しい女性の姿をしているものもありました」
「人まで探すなど、面倒でならぬ。山でも掘らせておけば良い」
「ほほ・・・案外何処ぞの嫁にでもなっているかもしれませんよ」
ダブルクロスのDロイスをお題にした企画