戦場から帰ると、壮絶な微笑みで出迎えられた。
「お帰りなさいませ。お風呂になさいますか、湯浴みになさいますか、それとも行水になさいますか?」
「……洗えという事か」
「ええ。オクラから爪先まで真っ赤になってみっともないったら。
刀も血脂が巻いていますでしょう。研師が毎度泣いておりますわ」
「……」
「全く、戦装束の色を変えるのは構いませんけれど、どうして白になさったのかしら。
汚れが目立って仕方がありませんわ」
ただでさえ血は時間が経つと落ちにくくなりますのに。
湯殿で力の限り洗われながら延々と愚痴られている。
堂々の勝ち戦だというのに心から勝利を噛み締める事が出来ないのは、
勝とうが負けようがこの女にこうして言葉責めを食らうからというのがある。
「……止めれば良いのであろう」
「別に、貴方様は一国の主ですから、なさりたいようになさって構いません。
ただ戦で返り血を浴びる場合は、それを洗う者が居るという事を是非とも心に留めておいて下さいましね」
逃れようと殊勝に振舞ってみても態度は変わらない。慇懃無礼を絵に描いたような女だ。
「鎧を洗うのが手間ならば庭にでも埋めれば良かろう。どうせ次の戦には仕立て直す」
「ご安心下さい、装束は四国から頂いた絡繰『洗濯鬼』で丸洗いいたしますから」
「……何が不満なのだ、貴様は」
「いいえ、不満など何も。ただ家臣より余程酷い有様を見ておりますと、
まるで私に洗って欲しいが為だけに汚れて来るような気がしてしまうだけですわ」
「……阿呆が」
染衣装は汚れが目立ちそうだと思ったので