シリフ霊殿
Schild von Leiden

日輪と隠れんぼ
「んむ……」
 ベッドの中でもぞもぞと身じろぐ。羽根布団の感触が心地良い。
 隣を見ると元就は未だ眠っていた。
 陽はもう高く昇っていて、( わ あ 日 輪 様 が 黄 色 い よ ! )
 カーテンの隙間からベッドと平和そうに眠る元就を照らしている。
 あたしと暮らすようになってから……正確に言うとあたしと暮らすために引っ越して、この窓際にベッドを入れてから、
 この男は毎朝早起きして日輪を拝むという事をしなくなった。
 態々起きなくとも日輪様は照らしてくれるとでも言いたいのか、完全に窓に背を向けあたしに寝顔を見せている。
 それともこれはあれか、『原始、女性は太陽であった』 ……んな訳無いか。
 とりあえずベッドの上に身体を起こす。……あでで、腰いて。
 ベッドから降りようとして、自分が何も着ていないのを思い出した。道理で羽毛布団の感触がやたらリアルだと思った。
 その辺に散らばっている服を適当に拾って身に着け、台所へ湯を沸かしに行く。
 目覚めのモーニングコーヒーを淹れる為だ。



 マグカップは2つ。あたしのと、元就愛用の日輪マーク入りの。
 (つーかこんなもん何処で見つけて来たんだあいつ)
「元就、コーヒー」
 カップを脇のサイドテーブルに置いて声を掛ける。
 起きてるのにまだ布団被ってようとしてるだけなのはもう分かってるから。
「元就」
「……」
 てめえこの野郎。
「ちょっと元な……りっ!?」
 いきなり腕を引かれる。危うくサイドテーブルをひっくり返す所だった。
 ベッドに倒れ込むともそもそと元就が擦り寄って来たので、仕方無く布団に戻った。
「言っとくけどもうやんないよ」
 頭から布団を被ったまま、甘えるように腕やら腰やら撫でてくるので一応釘を刺す。
 布団からは特に反応無し、ただ中からはぼそぼそと何やら訴えているのが聞こえた。
「ん、何、何か言った?」
「……る」
 頭から被ってるもんだから表情すら分からない。……引っぺがしてやろうか。
「きーこーえーなーいー。いつもみたいにビシッと言ってよ」
「……から!分かっておる、と……」
 分かってる?何をだ?ああ、太陽が黄色い事。いやコーヒーの事か。
 あっそう、とだけ言って布団の塊を軽く叩くと、内側で強く握り締めでもしたのかきゅっと小さな音がする。
「……」
「元就?」
「このような不敬を犯すなど……申し訳無くて日輪に顔向けが出来ぬ……!」
「……」
 不敬なのか、これは。こいつの宗教観はよく分からない。
 ……でも、まぁ。





「じゃあまぁ、日輪様があっち行くまで二人して隠れてますか」



日輪に申し訳ない、って言わせてみたかった
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